研究課題/領域番号 |
22J10658
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
冨田 拓希 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
キーワード | 絶対ゼータ関数 / 絶対数学 / 絶対Euler積 |
研究実績の概要 |
絶対ゼータ関数とは、与えられた関数に対して定まる複素関数であり、与えられた関数が(Laurent)多項式環の元であるものについて今まで中心的に調べられてきた。本年度は、東京理科大学の平川義之輔氏との共同研究において、多項式環より広い解析関数のクラスAを導入し、それに対する絶対ゼータ関数を調べた。そして、Aの元に対する絶対ゼータ関数(またはその対数微分)に対して三つの表示(級数表示・積分公式・絶対Euler積)を得た。特に、絶対Euler積という無限積表示についての結果は、多項式に対する絶対ゼータ関数で既に得られていた絶対Euler積を一般化したものである。この結果により、研究の目的である絶対Euler積を用いた絶対ゼータ関数の幾何的特徴付けをするにあたって、与える関数がAの元であればその絶対ゼータ関数が絶対Euler積を持つと保証できるようになった。 さらに、本年度平川義之輔氏との共同研究において、従来の方法では絶対ゼータ関数が“標準的に”定義できない幾何的対象に対して、標準的に絶対ゼータ関数を構成する手法を得た。その手法は、ある数列に対してその数列の増大度を反映するような“天井/床多項式"と呼ばれる関数を取る手法である。この手法によって、今までは扱えなかった楕円曲線に対して、関数等式を満たしたりBetti数と整合したりするような良い絶対ゼータ関数を標準的に定義することができた。この結果により、本研究で扱いたかったS代数のスペクトルに対して標準的に絶対ゼータ関数を構成するための土台が整った。 以上の結果については、現在論文としてまとめている途中であり、論文が完成し次第投稿する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、本年度は、従来扱っていたF1スキームの一般化であるS代数のスペクトルの有理点の個数のなす数列から絶対Euler積の各因子を記述できるような関数を標準的に抽出する手法を確立することを予定していた。これを行う際に、二つ障害となるものがあった。一つ目は、一般にF1スキームの有理点の個数のなす数列から絶対ゼータ関数を標準的に構成する方法がなかったことである。二つ目は、従来の絶対Euler積では、扱える絶対ゼータ関数の元になる関数が整数係数多項式のみであり、非常に限定的であったことである。 本年度の研究により、両者の問題を解決するための手立てを得ることができた。前者について、“天井/床多項式"を導入したことにより、S代数のスペクトルの有理点をF1スキームと同様に定義することで、S代数のスペクトルの絶対ゼータ関数を構成すれば良いということが分かった。さらに、後者について、解析関数のクラスAを導入し、従来の絶対Euler積の扱える元の関数をAの元にまで拡張したことにより、定義よりAの元である“天井/床多項式"に対して、絶対ゼータ関数の絶対Euler積を与えることができるようになった。 以上より、本年度の研究における問題を明確化し、その問題点を解決するための道具立てができたので、研究計画において現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している。」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、まず本年度得た二つの結果を共同研究者と協力しながら論文にまとめ、投稿することを行う。 さらに、本年度の結果を踏まえて、S代数のスペクトルに対して絶対ゼータ関数を定義し、その絶対Euler積の各因子をS代数の巡回ホモロジー群などの幾何学的不変量を用いて解釈するという本研究の目標を達成することを目指す。S代数のスペクトルに対する絶対ゼータ関数の定義に必要な道具立ては今年度に得たので、今後はそれをちゃんと構成することを行う。絶対Euler積の幾何学的解釈を行う際に、巡回ホモロジー群など代数幾何的道具を使う予定であるので、巡回ホモロジー群の構成や必要と考えられる性質を研究する必要がある。そのため、絶対ゼータ関数の構成と巡回ホモロジー群の研究は同時並行で行う予定である。その後、本年度得た楕円曲線に対する絶対ゼータ関数の絶対Euler積の特徴を参考にしながら、S代数のスペクトルに対する絶対ゼータ関数の絶対Euler積の各因子の幾何学的解釈を与える。
|