研究課題/領域番号 |
22J10924
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
西山 遥 慶應義塾大学, 文学研究科(三田), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 相互行為語用論 / 語用論 / 発話解釈 / 談話解釈 / 意味の類似性 / 意味操作 |
研究実績の概要 |
本研究では、話し手の発言をもとに作られた聞き手の発言を対象に解釈を提示する方法を分析、聞き手の解釈及び解釈提示の実態について論じる。2022年度は、先行研究整理、事例分析、さらなる分析対象の模索の点において研究を進めた。
1. 先行研究整理:解釈・言い換えに関わる言語学的諸先行研究を、分析理論や分析事例をもとに整理した。言い換え標識(in other words等)後の発話解釈プロセスが表意・推意形成の観点から分析された他、論証的な語用論研究、具体的には議論内で同一話者が行う言い換え前後の関係についての研究が為されていた。そこで、先行研究で列挙された解釈プロセスや言い換え関係の種類を、実際に収集した討論の事例に当てはめて分類した結果、有用性と同時に分類上の課題が明らかになった。 2. 共同構築の事例分析と成果発表:会話の共同構築について分析した。共同構築では、1つの文と見做せるような発言を、2人以上で分担し完成・拡張する。日本語の共同構築に特徴的な例として、第二話者が第一話者の発言に続く言葉を一時的に差し挟み第一話者に続きを促す、第一話者の発言内容に続く具体例を第二・第三話者が続けて提示する等、極めて協調的な例が多く見られた。他者が協調的に補完する部分は、統語的に推測しやすい構造、文脈上妥当な内容の具体例の列挙のため、とりわけ第一話者の同意を得やすく、先行発話への理解・同調姿勢を提示しやすい形となっていることが明らかになった。この分析について、相互理解への貢献という点からの議論を国外学会で発表し、協調的な相互行為としての側面は査読付き論文誌で発表した。 3. さらなる分析対象の模索:聞き手の発言・反応は、理解提示・円滑会話促進のための自然なもの以外に、特に討論やセラピーなどの会話で恣意的に話し手の発言を操作する事例が多々観察された。そのため、今後はこれらの会話も分析対象とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度を通し、日常会話において聞き手が話し手の発言の意味に影響を及ぼす現象、具体的には先行発話の言い換えや複数参与者による共同構築について、先行研究整理と事例分析を繰り返し行なった。 その結果、共同構築については、概ね協調的な日常会話で用いられることがほとんどであった一方、聞き手による話し手の発言の言い換えは多様な種類の会話で多様な目的で用いられていた。言い換えの機能は多々あり、元の話し手の発言への理解を示す、発言内容の確認を行うような場合から、自分が元の話から新たに話を展開しようとする場合、また、話し手の発言を会話の目的に即してまとめたり、聞き手にとって都合が良いように恣意的に言い換えたりする場合など、つまり、聞き手が単なる情報の受信者から会話構築者として会話内容をコントロールする機能まで多岐に渡ることが、先行研究でも論じられ、また実際の会話内においても行われていることが分かった。 2022年度は日常会話を中心に協調的な聞き手の参与としての共同構築や言い換えについて、その実態を観察することができた。当初の研究計画としては、①先行研究の網羅的な把握、②研究意義の主張の強化、③事例の収集、④試験的分析の実施を予定していたことから、①③④について網羅的に計画の通り遂行することができた。そのため、概ね順調と言える。 しかし、上述のような会話上の多機能性を踏まえ、2023年度は、会話目的や聞き手の意図を反映したより戦略的に用いられる聞き手の参与に関わる現象・事例を新たに収集・分析することから、②研究意義について再考の必要があり、また新たに③事例の収集を進めていき、より広範囲な会話の営みについて論じる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
様々な先行研究に当たった結果、討論やセラピーなど特定の種類の会話内で行われる戦略的なある種の言い換えを分析している研究があった。そこで、実際にそれらの種類の会話事例を観察したところ、聞き手による理解提示・円滑会話促進のための自然な反応以外にも、聞き手が恣意的に話し手の発言を操作する事例が多々あり、そこでは、聞き手にとってのコミュニケーション目的を達成するための戦略が、言い換えのみならず多く使用されていると推察するに至った。そこで2023年度しばらくは、討論やセラピーの会話を中心に、言い換えを含めた聞き手の反応を収集・分析することで、日常会話よりも明確な話し手の発言に対する聞き手の反応を通し、解釈及びその提示について議論を行なっていく予定である。 事例収集方法としては、会話コーパス以外にも、一般公開されている討論大会の会話データ、研究目的で公開されているセラピーの会話データを使用する。その上で、討論やセラピーという目的志向の会話において、聞き手が討論相手の主張に勝つ、あるいは患者からの悩みや相談を治療のためにまとめる時に、聞き手がどのように戦略的に言い換えを行っているかを、先行発話と言い換えた発話の発話自体の意味間・発話から想起される文脈間の比較、また発話解釈のみならず談話解釈の観点から分析を行う。 分析手法としては、先行研究をもとに、伝統的に主流とされる関連性理論の他、論証的語用論での言い換え関係の種類、意味の類似性、談話解釈などを、事例の状況に合わせて組み合わせて分析する予定である。
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