研究課題/領域番号 |
22J13988
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大原 直也 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質ナノ粒子 / 超分子 / 自己組織化 / 金属タンパク質 / 構造生物学 / DNA内包 |
研究実績の概要 |
本研究では、アルカリ土類金属に応答して会合・解離する60量体タンパク質ケージmTIP60について、(1)金属イオンの結合と60量体形成との関係を明らかにすること、および(2)ケージの会合と解離を利用した第三分子の内包・放出を実現することを目的としている。 本年度は、まず金属イオンの結合部位を決定するため、金属イオン存在下で形成される60量体についてクライオ電子顕微鏡と単粒子解析による立体構造解析を検討した。mTIP60はアルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba)に応答して会合するが、特に親和性が高いと推測されていたバリウムを用いたサンプルで構造解析を行った。グリッド上でサンプルを凍結した際に粒子が凝集してしまう傾向が強く、初期の解析では分解能が不十分であった。しかしその後、金属イオン濃度などの検討を重ね、最終的に3.96オングストロームの分解能で立体構造を決定することに成功した。これには結合した金属イオンに対応するポテンシャルマップも含まれており、金属配位結合が隣り合うモノマーを架橋することで60量体の会合を誘導していることが明らかとなった。 次に、mTIP60ケージの会合と解離を利用した化合物の内包・放出についても検討した。ここではモデル化合物としてssDNAの内包を試みた。具体的には、まずDNAとK67Eを混合し、最後に金属イオンを添加する方法を採用した。この際、TIP60の内部表面を変異導入により一部正電荷にし、負電荷のDNAを誘引する機構を組み込んだことで、効率的な内包を実現した。 以上の成果は、国内外の学会で発表し複数の賞を受賞しているほか、論文として国際誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたmTIP60の立体構造解析について、Ba添加時の構造を近原子分解能で決定することに成功している。 また、mTIP60の会合と解離を利用した化合物の内包・放出について、ssDNA分子をモデルとして成功した。分子の内包を実証するための実験系も確立でき、次年度以降予定している物質内包系の拡張に向けた基盤を得ることができた。 以上、全体として当初の計画通り順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
分子内包について、これまで検討してきたssDNAに限らず、より幅広い分子に適応できる系へと拡張することを目指す。まずは構造が類似しており同じメカニズムで内包可能と推測されるRNA分子から検討する。RNAの内包が達成されれば、mRNA医薬の保護剤としての応用用とが期待できる。また、これと並行してタンパク質の内包についても検討する。タンパク質の構造や物性は核酸分子と比較すると極めて複雑かつ多様であり、その効率的な内包はより難易度が高いと推察される。ここでは、TIP60に対して内包したいタンパク質を直接融合するなど、追加の分子設計も含め検討を進める予定である。
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