研究課題/領域番号 |
22J20821
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
宮本 恵里花 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβタンパク質 / 環状ペプチド / ガングリオシド / 原子間力顕微鏡 / 脂質ラフト |
研究実績の概要 |
細胞膜上の流動性の低い領域である脂質ラフト上では、糖脂質であるガングリオシドがクラスターを形成している。アルツハイマー病 (AD) においては、原因タンパク質であるアミロイドβタンパク質 (Aβ) がガングリオシドクラスターに結合し、高毒性なAβ凝集体の形成を促進する複合体を形成する。本研究課題ではこの現象に着目し、膜上のガングリオシドに誘起されるAβ凝集を再現するモデルを構築し、Aβ凝集阻害剤を開発することを目的とした。 まずガングリオシドを含む市販の脂質を用いた平面膜デバイスを作製し、原子間力顕微鏡 (AFM) で観察することで、ADにおける膜上のガングリオシドに誘起されるAβ凝集を再現・評価した。次に、これまでにファージ提示法で同定されたガングリオシド結合性ペプチドの立体構造をもとに分子設計を行い、環状ペプチドを合成した。平面膜デバイスを用いたAFM観察や、細胞毒性アッセイの結果、環状ペプチドの高いAβ凝集阻害能を明らかにした。環状ペプチドは、Aβと膜上のガングリオシドとの複合体形成という、凝集の起点に作用することでAβ凝集を阻害する可能性がある。Aβの凝集の起点となる膜上での現象を評価する実験系として、本研究で用いた手法が有用であることが示された。 次に、よりAD患者脳内環境を模倣した環境でペプチドの機能を評価するために、ヒト脳抽出脂質を用いた平面膜デバイスの作製に着手した。まず、AD患者を含む高齢者の剖検脳皮質から調製された、Aβ凝集好発部位である楔前部および、Aβ凝集回避部位である鳥距溝由来のシナプス膜脂質を用いて平面膜を作製した。次にこの患者脳由来脂質から作成した膜デバイス上でのAβ凝集をAFMで観察した。膜表面に形成されたAβ凝集体の評価の結果、ヒト脳部位特異的なAβ凝集の観察に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に記載した実験について、一部の実施順を入れ替え、まず市販の脂質を用いた膜デバイスを作製し、Aβ凝集阻害剤となる環状ペプチドの機能評価を実施した。また、より生体内での条件を模倣するための、ヒト脳由来脂質を用いた平面膜デバイスの作製を完了した。今後はAβ凝集誘導因子として金属イオンなどを添加しAD環境模倣Aβ凝集モデル上でのAβ凝集を評価する予定であり、おおむね計画通りに実験を実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、AD環境模倣Aβ凝集モデルを構築するために、ヒト脳由来脂質を用いた平面膜モデルに金属イオンなどの凝集誘導因子を追加してAβの凝集を評価する。さらに、構築した凝集モデルを用いて、膜上で誘起されるAβ凝集を標的としたペプチドの機能評価を行い、凝集阻害剤の開発を目指す。
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