研究課題/領域番号 |
22KJ2714
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
曽家 希美 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピンホール効果 |
研究実績の概要 |
本研究において軌道トルクの検出には強磁性体を用いる。そのため、軌道トルクの正確な評価には強磁性体中のスピン流生成に起因する自己誘起トルクの定量・分離が必須である。そこで本年度は、強磁性体中のスピン流生成について調べた。 強磁性体中では磁化による交換場が存在するため、spin dephasing機構によって磁化と直交するスピン偏極成分は消失する。したがって従来、強磁性体中のスピン流のスピン偏極方向は磁化と平行であると考えられていた。しかし近年になり、強磁性体中の内因性スピンホール効果により発生したスピン流については、磁化と直交するスピン偏極成分も存在できることが理論的に示唆された。そこで本研究では、強磁性体のスピンホール効果の磁化角度依存性を実験的に検証した。測定の結果、強磁性体中のスピンホール効果により生成したスピン流についてはspin dephasingの影響を受けず、磁化と直交するスピン偏極成分も存在できることを見出した。さらに、生成スピン流のスピン偏極と強磁性体磁化との相対角を系統的に変化させた測定により、強磁性体中のスピン流生成効率は相対角に依らず一定であることを明らかにした(Soya, et al., Physical Review Letters 131, 076702 (2023)に発表)。 軌道トルクの検出に関わる強磁性体スピン軌道物性を明らかにした本成果は、軌道流物性の解明に貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、強磁性体中のスピン流生成に起因する自己誘起トルクと軌道トルクとの分離は喫緊の課題であった。今年度の研究により得られた強磁性体中のスピン流生成に関する成果は、自己誘起トルクに関して重要な情報を与えるものであり、軌道トルクの正確な定量に貢献する。 現在までの研究により、酸化物中間層(昨年度)と強磁性体(今年度)のスピン軌道物性を明らかにした。これらの成果により、強磁性体/酸化物中間層/SrTiO3デバイスにおける軌道流・軌道トルク観測のための準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で用いる強磁性体/酸化物/SrTiO3デバイスにおいては、SrTiO3基板に流れる電流のエルステッド磁場によるトルクを無視できない可能性があるため、その寄与を明らかにした上で軌道トルク測定に臨む。軌道トルク測定においては、ゲート電圧の印加により酸化物/SrTiO3界面の二次元電子ガスのフェルミエネルギーを系統的に制御した測定を行い、電流・軌道流変換を界面電子構造に紐づけて解き明かす。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は強磁性体/酸化物/SrTiO3基板という構造のデバイスをターゲットとしている。2023年度は強磁性体に着目した研究を行なった。その際には、SrTiO3基板よりも安価なMgO基板を用いることによりコストの削減が可能となった。一方、2024年度に実行予定の研究においては、SrTiO3基板が必須である。次年度使用額に当たる助成金を使用することで、SrTiO3基板を使用した実験を行う計画である。
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