研究課題/領域番号 |
22J21699
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉浦 圭祐 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | SLAM / 専用アクセラレータ / 点群処理 / FPGA / 点群特徴抽出 / 経路計画 |
研究実績の概要 |
点群レジストレーションは、様々な視点から撮影された点群を貼り合わせる処理を指し、ロボットの自己位置推定と地図構築 (SLAM)、そして自律走行を実現するうえで欠かせない。深層学習の発展により、精度や頑健性に優れた手法が数多く登場しているが、計算量とメモリ消費の増大が課題となっている。ロボット上の計算資源には限りがあるため、処理の軽量化と高効率化がより一層求められる。申請者は本年度、軽量なニューラルネットに基づく手法 (PointNetLK)に着目し、再構成可能デバイス (FPGA)を用いてその高速化を行った。特徴抽出を80倍以上、レジストレーション処理全体を35倍高速化し、組み込みGPU (NVidia Jetson)と比べて2倍のエネルギー効率を実現した。 また、初期値に依存しない頑健なレジストレーション手法として、点群特徴抽出によるものが数多く提案されている。これらの手法はSLAMのループ検出処理に用いられ、長時間動作に伴う累積誤差を解消し、精度を保つために必要である。このことから申請者は、最も広く普及している点群特徴量 (FPFH)を対象として、ハードウェア化に向けたアルゴリズムの効率化と、そのFPGA実装を行った。組み込みCPU (ARM Cortex-A53)と比べて処理を4.6倍高速化し、エネルギー効率を3倍改善した。 さらに申請者は、障害物を回避しつつ、与えられた始点と終点を結ぶ最短経路を求める経路計画手法の研究を開始した。深層学習ベースの手法であるMPNetに着目し、ニューラルネットの改良と小型化、およびそのFPGA実装を行った。2次元の経路計画問題に関しては、32倍のパラメータ数削減、21倍の高速化を実現し、元の手法と比べて成功率が20%以上改善した。これら3つの結果は、小型移動ロボット上でリアルタイム動作可能なSLAMアプリケーションの実現に繋がる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ロボットの自己位置推定と地図構築 (SLAM)を対象とした、軽量な点群レジストレーション手法を研究する予定であった。申請者はその計画にならって、PointNetLKとよばれる、小規模な点群深層学習モデル (PointNet)と、古典的なオプティカルフローの推定手法 (Lucas-Kanade法)を組み合わせた手法に着目した。PointNetの性質を活用した高効率なアクセラレータを開発し、FPGA上に実装した。CADモデルのデータセットを使った評価により、専用アクセラレータが、組み込みCPUとGPUの双方に、実行速度とエネルギー効率の面で優れていることを示した。この結果は、専用ハードウェアによるSLAM実装の足掛かりとなる。 PointNetLKは非線形最適化に基づく逐次的な手法であり、良い初期値の存在が前提となる。SLAMには、以前訪れた場所に再び戻ってきたかどうかを判断する、ループ検出という処理があるが、ループ検出では、良い初期値が得られるとは限らないため、初期値に依らない手法が必要である。そのような手法の多くは、点群から抽出された特徴量同士のマッチングに基づいている。 このことから申請者は、ループ検出処理への応用を見据えて、点群からの特徴抽出処理の高速化を行った。具体的には、点群特徴量の一つであるFPFHを対象としたアクセラレータを設計実装した。画像特徴量とは異なり、点群特徴量のアクセラレータの実装例は依然として少なく、本研究はその先駆けとなる。 専用ハードウェアによる効率的な点群特徴抽出とマッチングは当初、2年次以降に計画されていたものであるが、本年度に既に取り掛かっている。従って、研究計画はおおむね順調に進んでいると考えている。点群特徴抽出に加えて、本年度ではさらに、深層学習ベースの経路計画手法の高速化も行った。こちらは当初の研究計画にはなかったものである。
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今後の研究の推進方策 |
LiDARセンサを用いたSLAMでは、センサデータに欠損やノイズが生じやすいことから、それらに頑健なレジストレーション手法が求められる。また、センサデータの性質 (一定間隔の仰角と方位角をもつなど)を活用する余地がある。現在開発しているレジストレーション用の専用アクセラレータは、CADモデルのデータセットについては概ね動作するが、今後、実世界のLiDARデータに適合するように改良していく必要がある。 本年度は、SLAMのループ検出処理への応用を見据えて、FPFHとよばれる点群特徴量向けのアクセラレータも作成した。FPFHは計算量が少なく手軽で、広く普及しているが、近傍点探索や法線計算などの前処理を伴い、専用ハードウェアによる高速化がやや困難である。近年、ScanContextなどの深層学習による特徴抽出手法が相次いで登場している。既存手法に比べるとループ検出の精度は優れているが、計算量の増加が課題である。今後、これらの手法の軽量化と高速化を進める予定である。また、特徴量のマッチング処理のハードウェア実装は行っていない。直積量子化による手法など、データ量が少なくハードウェア化に適した、高次元データ向けの最近傍探索手法が必須である。 本年度は深層学習ベースの経路計画手法の高速化も行ったが、高速化されたのはニューラルネットの推論処理のみである。経路計画において性能のボトルネックとなりやすい衝突検知処理は、依然としてCPU上で処理されている。今後、衝突検知処理なども含めた、経路計画手法全体を専用ハードウェア上に実装し、成功率や実行速度の観点から、既存のサンプリングベースの手法と比較する予定である。
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