研究課題/領域番号 |
22J22673
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小和口 昌愛 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 分子シミュレーション / モンテカルロ法 / 液晶 / 準結晶 / レプリカ交換法 / 進化戦略 / 閉じ込め系 / 最適化 |
研究実績の概要 |
本研究では分子シミュレーション分野で用いられるモンテカルロ法を最適化かつ高速化し,ナノレベルで空間的制約を加えた異方性分子の相転移現象を解明することを目的としている.シミュレーションの対象とする異方性分子は,アモルファスと結晶の両方の性質を持つ液晶分子と,アモルファスでも結晶でもない第三の物質と言われる準結晶であり,いずれも等方性分子では観測されないような特異な振る舞いを示す.また異方性であることから計算コストが高くシミュレーションが困難となり得るため,計算効率を上げる必要があった.そこで,分子シミュレーション分野でサンプリング効率を改善するために開発されたレプリカ交換法にさらに遺伝的アルゴリズムである進化戦略を加え最適化を試みた.この手法を液晶分子の粗視化モデルに適用し相挙動に対する知見を深めた成果は学術雑誌に投稿され,論文として掲載された. また2022年度は英国オックスフォード大学にて共同研究を行った.そこでは,準結晶の再現可能性を試みた.回転対称性を保持しつつ並進対称性を持たないという幾何学的にユニークな特徴を持つ準結晶がなぜ熱力学的に安定で存在するかは不明であり,未だ発見されていない準結晶構造は多数存在すると予想されている.現代の科学では,特定の条件が与えられることで準結晶を形成することがわかっているが,どのようなパラメータが優位に働くかによって分子がこの複雑な挙動を示すかはブラックボックスのままである.我々はシミュレーションを通じて実際に分子の動きを観察することで,準結晶を形成するための重要因子を明らかにしようと努めた.最先端の材料技術,バイオ,ナノテクノロジー等は従来の結晶構造に基づいて進化してきた.そのため,新しい準結晶を発見し人工的な結晶構造を設計することが可能になれば,画期的な材料の開発に繋がり,技術の進歩に貢献すると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は液晶分子に限定した研究計画を考案し,液晶分子の相挙動に関する研究を進めていたが,進めていく中でより特異な挙動を示す準結晶の概念を知った.そこで準結晶と分子シミュレーション分野において世界における第一人者として開拓してきたオックスフォード大学の教授の元でその研究も実施することもできたので,当初の計画以上に進展していると自己評価する.研究課題で元々計画している液晶分子に空間的制約を加えたシミュレーションに関しては,昨年度はバルク系での実装を試し考案した最適化手法が有力であることを示せた.本年度中に閉じ込め系におけるシミュレーションを行うための準備が整っており,本年度中に成果を発表する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず液晶分子の粗視化モデルに関する閉じ込め系の相図を得ることを目的とする.閉じ込め系の相挙動を再現する際に,昨年度開発した最適化手法を使用することを検討しているが,適用するためには試行錯誤が必要になると考えられる.これは,空間的な制約が加わると同じ圧力や温度を粒子に与えても壁の影響で系の挙動が大きく変動することが期待されるためである.閉じ込め系における相図が得られれば,ナノスケールでの相転移現象の制御が可能となり,多岐にわたる分野に大きな影響を与えることができる.この計算を実行するにあたり膨大な計算資源を確保する必要があるので,引き続きスパコンを使用する.結果がまとまり次第,本年度は液晶関連の分子シミュレーション学会に参加して成果を発表したいと考えている. 次に,昨年度は英国オックスフォード大学化学科のJonathan Doye教授の元で共同研究を行い,準結晶に関する研究を進めた.そこでは粒子が回転対称性を保ちながら並進対称性を持たないような準結晶構造を自己組織的に形成するための人工的な異方性パッチの設計に関する研究に精進した.シミュレーションによって形成された構造が解析パターンより八回対称性を持つ準結晶であることがわかったので,今後は構造をより深く解析し考察を進める予定である.
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