研究課題/領域番号 |
22J00617
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡辺 惟央 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アルベール・カミュ / ブリス・パラン / ジャン・ポーラン / シュルレアリスム |
研究実績の概要 |
本研究は、20世紀前半のフランス文学に見られた「言語不信」の問題について、社会状況との関連などを踏まえつつ、その文学史的意義を検証することを総合的課題とする。本年度は以下の二点を中心に調査を行なった。 (1)「言語不信」の主題が持つ射程について、主題論的研究を参照しながら論点を整理した。特にA. コンパニョン『アンチ・モダン』(2005年)、L. ニュネズ『書くことに抗する作家たち』(2006年)を参照した。文彩や修辞よりも神懸かりや霊感を志向する「非-作家」の系譜は、プラトンの対話篇以来、1920年代のシュルレアリスム出現に至るまで、霊感の源泉をどこに認めるか(神か、人間内部か)をめぐる言説の歴史として理解しうる。この歴史的流れを、さらに次の二つの問いとその応答の歴史として整理することを試みた。(a) 人間内部にあるとされる霊感の源泉を実在的なものとして定義できるかどうか。(b) 言語不信の文学において、作家の表現手段としての言語は批判され、霊感が独りでに紡ぐ言語こそが称揚される。このとき、二つの言語を区別する境界はどこにあり、また両者はどのように関連しているのか。 (2)上記の二つの問いを踏まえて、本年度は、シュルレアリスム的霊感を擁護する側の批評家を分析した。J.モヌロ『現代詩と聖なるもの』(1945年)、F.アルキエ『シュルレアリスムの哲学』(1955年)では、シュルレアリスムが、しばしば指摘されるような「否定主義」「ニヒリズム」ではなく、むしろ人間の形而上学的「肯定」を試みる運動であったと主張されている。分析にあたっては、こうした「肯定性」擁護が、ジャン・ポーランによるシュルレアリスム批判に対する反論として構想されていた点を検証した。また、散文と詩の関係という形式的な問題が、上記のような哲学的な言説の中で扱われていく過程を具体的にあとづけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は2023年1月から採用開始となったため、本年度の3ヶ月間(2023年1-3月)は、採用期間全体の研究基盤を整えるべく、分析枠組みの明確化と、文献資料の収集・整理に注力した。成果公表には至らなかったが、次年度以降の成果公表に向けた研究の内容と展望を得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の基礎的研究とそこで得られた見通しに基づいて、次年度からフランス現地での資料調査に着手する。現代出版記憶研究所IMEC(カーン)では、ジャン・ポーランの書簡群および雑誌史料の閲覧を行う。メジャーヌ資料館(エクス=アン=プロヴァンス)では、ブリス・パランの未刊行資料およびアルベール・カミュとの往復書簡の調査を行う。並行して、ジャン・ポーラン『タルブの花』が提起した「修辞学」・「テロル」という二項対立の批評的有効性を検証すべく、この対立のもとで戦間期フランス文学の再読を試みる国際的な討論を企画する。海外研究者の招聘をはじめとする研究者間の意見交換の場を作り、公開の成果発表の場としてワークショップを実施する予定である。
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