研究課題
酸性キチナーゼ(acidic chitinase, Chia)は、昆虫や真菌の外骨格を構成するキチンを分解する酵素である。Chia のパラログ数やそのキチン分解性は、動物の食性と大きく関わる。本研究は、現代の動物が保持する Chia のパラログ分子の機能について明らかにし、最終的にヒトの Chia パラログ分子の生物・医学的特徴を明らかにすることを目指す。本年度は、進化的解析の基盤のため、肉食性動物における Chia の酵素機能と分子進化の関係について解析を行った。活性の低いイヌと活性の高いマウスの Chia 間でキメラタンパク質、変異体を作製、解析することにより、イヌ Chia の活性低下を引き起こす 2 アミノ酸置換を明らかにした。そして、イヌが属する食肉目 41 種の Chia の配列を解析したところ、イヌ科、スカンク科、マングース科を除く 32 種で Chia は遺伝子喪失していた。さらに、昆虫を食べるスカンク、ミーアキャットは、完全な ORF を保存し、高い活性を示した。これらの結果から、現代でも昆虫を食べる種の Chia は活性が高く、他方、昆虫を食べない種では Chia が機能レベルで不活性な分子へと進化したことを明らかにした(Tabata et al.,Mol Biol Evol.39,msab331,2022)。以上の結果は、ほ乳類における食性の変化に伴う分子進化であり、また、ヒトの Chia パラログの理解のための進化的知見となる。
2: おおむね順調に進展している
肉食性動物がもつChiaの低活性または活性喪失に関わるアミノ酸残基を同定した。また、同定したアミノ酸を手掛かりに、食肉目動物におけるChiaの機能と分子進化の関係を明らかにした。
今後は、よりヒトに近い非ヒト霊長類がもつChiaパラログの機能の解析を行い、食性とキチン分解能の関係を明らかにする。そして、すでに明らかにした食虫性の動物がもつ5つのChiaパラログの機能と配列との関係から、その進化過程を推定する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)
Mol Biol Evol.
巻: 39 ページ: -
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