研究実績の概要 |
酸性キチナーゼ(acidic chitinase, Chia)は、昆虫や真菌の外骨格を構成するキチンを分解する酵素である。Chiaのパラログ数やそのキチン分解性は、動物の食性と大きく関わる。本研究は、現代の動物が保持するChiaのパラログ分子の機能について明らかにし、最終的にヒトのChiaパラログ分子の生物・医学的特徴を明らかにすることを目指す。本年度は、進化的解析の基盤のため、草食性動物におけるChiaの酵素機能と分子進化の関係について解析を行った。活性の低いウシと活性の高いマウスのChia間でキメラタンパク質、変異体を作製、解析することにより、ウシChiaの活性低下を引き起こす1アミノ酸置換を明らかにした。この変異は大部分の草食性のウシ科動物で認められたが、一部の昆虫を食べる種では保存されておらず、高い活性を示した。さらに、クジラ偶蹄目に属する67種のChia酵素を進化学的に分析した結果、草食性のChia酵素は機能的制約が緩和されていた。これらの結果から、現代でも昆虫を食べる種のChiaは活性が高く、他方、昆虫を食べない種ではChiaが機能レベルで不活性な分子へと進化したことを明らかにした(Tabata et al., iScience 26(8):107254, 2023)。以上の結果は、ほ乳類における食性の変化に伴う分子進化であり、また、ヒトのChiaパラログの理解のための進化的知見となる。
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