研究課題/領域番号 |
19J40271
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
池田 美恵 順天堂大学, 医学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2023-03-31
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キーワード | アルテミシニン耐性 / 熱帯熱マラリア原虫 / 耐性レベル / MIC1% / LD50 / 定量的RSA / アフリカ |
研究実績の概要 |
マラリア高度流行地であるアフリカにおいては、頻回のマラリア感染によって患者には不完全ながらマラリアに対する免疫が出来る。第一選択薬であるアルテミシニン耐性原虫検出のゴールドスタンダードはin vivo薬剤耐性試験であるが、これはアフリカでは必ずしも有効ではない。その代替法としてRing-stage survival assay(RSA)が開発された。この方法は免疫の影響を除外して耐性の有無を判定可能である。しかし原虫の耐性度を定量不可能であるため、欠点を補う方法として定量的RSAを開発している。定量的RSAはマラリア原虫に暴露させる薬剤濃度を0nMから700nMまで8段階に設定したRSAである。 培養原虫を用いた解析では、耐性度をMIC1% (コントロールでの生存マラリア原虫を100%とし、生存原虫数がその1%以下となる薬剤濃度)および半数致死量 (LD50%) で評価した。耐性原虫(MRA1236とMRA1240)はMIC1%が700nM以上、感受性原虫(3D7)では87.5nMであった。LD50はMRA1236;23.2±16.7,MRA1240;22.9±10.5、3D7;10.6±0.8nMであった。耐性と感受性間のLD50差がわずか2倍であった。要因として、耐性原虫は最高濃度においても生存原虫がみられることで、LD50が低く見積もられていると考えられる。LD50値と従来の原虫生存率を併用して耐性を評価する系について新たに検討している。 さらに、フィールド調査の予備実験として、2014年から2015年にウガンダで実施した定量的RSAサンプルを解析した。原虫は、様々なMIC1%値を示していた。2017年の11例も同様に解析し、10例が高い耐性レベルを示していた(350nMから≧700nMまで)より多くのデータを得るために、フィールドでの定量的RSAの問題点を精査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、定量的RSAでのマラリアの解析法についてその評価法として想定しているMIC1%とLD50について検討した。 MIC1%での評価法は、既存のRSAでのsurvival rateではすべて感受性と評価していた原虫についても、耐性レベルが様々であることを明らかにできている。また、LD50での検討は、MIC1%より細かくここの原虫を評価可能であるが、アルテミシニン耐性原虫が700nMの薬剤暴露でも生存していることから、その評価をLD50のみで評価することが困難であることが明らかになった。また、解析法法として顕微鏡観察ではなくマラリア抗原を用いたHRP-2 ELISAを導入しており、解析の効率化も進んでいる。 本年度は、ウガンダの隣国であるコンゴ民主共和国でのエボラ出血熱のアウトブレイクが継続しているため、現地からサンプルを得ることが困難であったため、フィールドでの実験は難しかったが、既存データと培養株での実験を同時進行で進めることで、定量的RSAの利点とフィールドにおいて注意すべき点などを洗い出すこともできた。 次年度以降に向けての準備として十分な成果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き培養原虫を用いた定量的RSAのブラッシュアップとそこから新たに出る問題点についての解決方策を検討する。 特にLD50での耐性レベルの評価は、RSAでのsurvival rateを考慮しないと耐性原虫で見かけ上低いLD50が算出されてしまうことが本年度結果から明らかになった。そこで、Survival rate とLD50を組み合わせた評価法を検討する。この材料として、これまでウガンダフィールドで得られた定量的RSAデータのうちRSAでの耐性と評価されたサンプルと感受性と評価されたサンプル間で、0nMから700nMまでの薬剤暴露での原虫生存数の減少率をその傾きによって評価することで解決する。もしもこの方法でも評価が難しい場合は、定量的RSAでの薬剤濃度の変更も視野に入れている。 また、アルテミシニン暴露によって出現する死原虫(Pyknotic form)がELISAの測定値に影響するのかは不明のままである。Pyknotic formを薬剤処理によって誘導し、その有無がELISA測定値に影響するのかを明らかにする。影響が大きい場合は、補正方法を検討する。 アフリカにおいて、アルテミシニン耐性に関する新たな耐性候補遺伝子が報告されている。この遺伝子の変異の有無をウガンダサンプルにおいて解析し、定量的RSAでの耐性レベル評価の裏付けとなり得るかも検討する。 また、ウガンダから持ち帰った凍結マラリア感染血液ストックからクローンを得ている。ウガンダクローン株でのアルテミシニン耐性についても解析する。
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