研究実績の概要 |
今年度は, 昨年度に引き続き哺乳類の外群にあたる爬虫類・鳥類胚の収集及び舌骨・喉頭・気管の形態形成過程の記載を実施した. パラフィン包埋後に免疫組織化学染色法によるアセチル化チューブリン抗体を用いた神経の標識を行ったのちに, ヘマトキシリン・アルシアンブルー染色を用いて筋・軟骨の同定を行った. この過程で, 有羊膜類のなかで唯一喉頭による音声発信能力の退縮が生じた鳥類系統で, 気管・気管支に新奇に生じた発音器官である鳴管の発生過程を分析した. 結果, 現生鳥類の一部系統 (インコ目・スズメ目)の鳴管において新奇に生じている鳴管筋が, ニワトリ (キジ目, 鳴管筋なし)にみられる側気管筋の尾側方向への伸長によって獲得されていることを明らかにした. 神経支配の比較分析では, 鳴管筋が側気管筋から膨出する際に, 舌下神経の末端が分枝し, 鳴管筋および気管気管支筋内へ侵入していくことも判明した. こうした結果により, 鳥類では側気管筋・舌下神経の支配パターンの進化的変化によって音声の多様化を果たしたことが示唆された. また, 聴覚器の発生分析においては, 同じく哺乳類の外群のヘビ類を対象に, マイクロCTを用いて内耳を包含している後耳骨の骨化過程の三次元再構築を行った. 結果, ヘビ類のなかでもとくに音刺激に依存した生活史を有するナミヘビ科のアオダイショウにおいて, 後耳骨の肥大化, 骨化タイミングの早期化が生じていることが明らかとなった. ヘビ類は気導音を聴取するための鼓膜・外耳道を完全に消失した一方, 下顎・方形骨・アブミ骨関節を使用した骨伝導によって地導音を聴取している. 餌探索時に音刺激に依存することの多いナミヘビ科では早期的な後耳骨の骨形成によって内耳の肥大化を果たし, 骨伝導効率を向上させていることが考えられる. こうした鳥類の鳴管やヘビ類の後耳骨に関する研究結果は2本の論文にまとめ, どちらも既に投稿済みである.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって明らかとなった鳴管筋の発生起源についてさらに分析を進めるべく, 現在は爬虫類系統のシャムワニ, アオダイショウ, スッポン, ソメワケササクレヤモリの胚を収集し, 鳥類で生じた側気管筋が主竜類系統のいつ頃生じたのかを分析するとともに, 哺乳類との比較を行うべく舌喉頭気管の形態形成過程の記載を行っている.
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