研究課題/領域番号 |
21J00709
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
鈴木 陽太 上智大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ボロン酸 / シクロデキストリン / 分子認識 / 超分子複合体 / 糖類 / ヌクレオチド / 蛍光 / ゲル |
研究実績の概要 |
病状の診断や生物学的過程の解明のために,生体関連分子のセンシング及びモニタリングが医療や生物学の観点から重要である。本研究では、生理学的pHの水中で効率よく反応が進行する,高酸性度のボロン酸を反応部位とした,疎水性プローブ/シクロデキストリン(CyD)超分子複合体を新規に開発する。さらに,この超分子複合体を高分子化することで,生理学的条件において生体関連分子を迅速にセンシングできるCyDゲル化学センサーを開発する。 令和四年度は主に,(1)蛍光性プローブ/CyD超分子複合体による糖類・ヌクレオチド類のセンシング,(2)CyDゲルの調製及び評価に関する研究を行った。 (1)まず,高酸性度のボロン酸修飾型γ-CyDと蛍光性プローブの超分子複合体を調製した。蛍光団にボロン酸部位,またはジピコリルアミン-亜鉛錯体部位を導入したとき,それぞれ狙い通りにD-グルコース,ATPを高い選択性で蛍光認識した。続いて,未修飾CyDとボロン酸型プローブの1:2超分子複合体を調製した。この超分子複合体は生理学的pHの水中でD-グルコースを高選択的,高感度に蛍光認識するだけでなく,既報の蛍光性ジボロン酸化合物の中では最高のキラル選択性を有することが明らかになった。 (2)γ-CyDと架橋剤の反応から逆ミセル法によってゲルを調製した。動的光散乱法や透過電子顕微鏡による測定から,このゲルは10 nm程度の非常に微細なゲル(ナノゲル)であることが分かった。静的光散乱法,NMR測定から,ナノゲル1粒子の分子量は30,000程度であり,γ-CyD分子を約20個含むことが分かった。また,このナノゲルは水中で,γ-CyD分子単体よりもはるかに高い疎水性の環境を提供することが明らかになり,化学センシングの足場や薬剤輸送システムへの応用も期待できる。さらに,ボロン酸修飾CyDナノゲルの調製にも成功し,その評価中にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
次のように着実に成果が得られており,さらに当初の計画以上に進展した。 (1)当初の目的通り,D-グルコースとATPを高選択的に蛍光認識する超分子複合体の開発に成功した。加えて,既報の蛍光性ジボロン酸化合物の中では,D-グルコースに対する最高のキラル選択性を示す超分子複合体の開発に成功した。 従来の糖認識をするボロン酸型プローブは、多段階の合成反応を要するのに加え、水への溶解性が低い。一方で、本研究で開発した超分子複合体は、合成が簡便、水中でも使用が可能という魅力的な能力を持つことから、当該分野に大きなインパクトを与えると期待される。この研究に関連して,4報の海外査読付論文の発表(内2件は表紙に採用),複数の記事掲載,1件の特許出願を達成した。 (2)目的の通り,CyDを構成要素とするゲルの調製に成功し,さらに,このゲルは10 nm程度の超微細なナノ粒子(ナノゲル)であることが実験的に明らかにした。加えて,海外の研究機関と共同してナノゲルの構造を詳細に解析し,科学的に充実したデータを獲得した。 従来のCyDナノゲルのサイズは数10から数100 nmが一般的である一方で,本研究で開発したCyDナノゲルは10 nm程度しかなく,特徴的に小さい。このような超微細ナノゲルは,その広い表面積を活かすことで,効率的な化学センシングのための反応場となり得る。加えて,体内への蓄積能が低いために低毒性も期待できることから,新たな薬剤輸送システムの基盤となり得る。この研究に関連して1報の海外査読付論文を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に確立したシクロデキストリンナノゲルの調製法に基づき,令和5年度は,種々の分子認識部位(ボロン酸など)を修飾したシクロデキストリンを構成要素とするナノゲルを調製する。これによって,生体関連分子(糖類,多糖類,ヌクレオチド類)の認識能を導入したゲル材料を創製する。さらに,シクロデキストリン空孔に蛍光性プローブを包接させることで,標的分子に対する多点認識能と蛍光応答性を付与する。調製したゲルに関してもゲル化前の超分子複合体と同様に,分子認識能(親和性,選択性など)の評価を行う。さらに,それぞれの生体関連分子への選択性を生み出すために,ゲルの調製法と包接するプローブ構造を検討する。特に,令和4年度の研究により,プローブ構造を変えるだけで分子選択性が大きく変わることが分かったため,プローブの選択は重要な要素となる。 上述の研究計画の遂行に加え、これまでに得られた成果をまとめ、海外査読付論文誌に投稿し、学術論文として発表する。 令和5年度からは所属先を埼玉大学へ変更するが,必要な分光光度計や円二色性分散計は備わっているため問題なく研究を遂行できる。加えて,前所属先(上智大学)からの立地は近いため,備品の輸送なども問題ない。また,前所属先には共同研究員として在籍し,関係を継続するため,大学に出入りして大型機器を使用することも可能である。したがって,本研究の遂行に支障はない。
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