病状の診断や生物学的過程の解明のために,生体関連分子のセンシング及びモニタリングが医療や生物学の観点から重要である。本研究課題では、生理学的pHの水中で効率よく反応が進行する,高い酸性度のボロン酸を反応部位とした,種々のプローブ/シクロデキストリン(CyD)超分子複合体(CyD型超分子分析試薬)を開発する(研究1)。さらに,このCyD型超分子分析試薬を高分子化することで,生理学的条件において生体関連分子を迅速にセンシングできるCyD型ゲル状化学センサーを開発する(研究2)。 研究1については,代表的な生体関連分子であるアデノシン三リン酸,及びD-グルコースそれぞれに対して,生理学的pHの水中で非常に高い選択性を示すCyD型超分子分析試薬の開発に成功した。さらに,当初の計画以上の成果として,D-グルコースを高い選択性でキラル認識するCyD型超分子分析試薬の開発にも成功した。令和5年度の成果として,発色団の構造を変えることで,L-糖への選択性を持つCyD型超分子分析試薬の開発にも成功した。このキラル認識機構は非常に興味深いことから,現在,量子化学計算を駆使することで,CyD型超分子分析試薬の包接構造,及び蛍光応答機構に関する知見を得ることを試みている。 研究2については,界面活性剤を用いた逆乳化法によって,極めて微細なサイズを持つCyDナノゲル粒子(粒径10 nm程度,分子量30 kDa程度)の開発に成功した。CyD型超分子分析試薬のための,新しい反応場になり得る素材として期待できる。令和5年度の成果として,高い酸性度を持つボロン酸部位を修飾したCyDナノゲルの評価を行った。しかし,未修飾のCyDナノゲルと比較して水溶性が大きく低下してしまったため,構造の更なる検討(主に修飾部位への水溶性の付与など)が必要であることが分かった。
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