本研究は、フランス、イタリア、スイスにまたがる地域の言語であるフランコプロヴァンス語の再活性化について、特にフランスのブレス地方に焦点を当てて言語使用を包括的に調査し、言語意識との関係から考察するものである。2023年度は主に、2度のフィールドワークとその準備、収集したデータの検討を行ったほか、学会等での口頭発表と論文執筆を行った。 フィールドワークでは、言語文化団体に所属する話者へのインタビューと言語文化団体の活動の参与観察を実施した。具体的には、2022年度から継続して、話者の言語使用と言語意識、言語文化団体の活動、地域におけるフランコプロヴァンス語の使用、地域フランス語を介したフランコプロヴァンス語の継承等について調査した。フランコプロヴァンス語は概して、日常のコミュニケーション言語としては用いられなくなったポストヴァナキュラー的状況にあるものの、店名などでの単語の使用から、挨拶などの短い表現、そして話者によっては日常的に会話で用いる言語の一つとして使われていた。また、文化遺産的な価値は付与されるものの、過去と結びつく言語の“痕跡”ともみなされ得る語彙集などの出版物がどのように使用されているかという点にも着目した。 一方、言語文化団体以外の組織等におけるフランコプロヴァンス語の使用と位置づけについても調査を行った。ローカル・ラジオ局、博物館、文化遺産関連団体、フランコプロヴァンス語を店名とする店舗などであり、フランコプロヴァンス語は地域の文化的遺産の一部、あるいは地域性を表すものとみなされているが、地方や国の境界を越える言語であるという側面は調査ではあまり重視あるいは意識されていなかった。なお、比較のためにフランスのフランコプロヴァンス語圏のほかの地域でも短期の調査を行った。 データを分析・考察した結果は、2024年度以降に予定している口頭発表や論文等により、公表していく。
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