本研究ではカラッチ一族を中心とするボローニャ派の画家たちが、暖炉と扉という室内の「開口部」のために制作された絵画を網羅的に取り上げ、その図像体系の形成と波及の様態を解明する。その目的は、室内の特定の「場所」に応じた図像の系譜が、空間を劇的に演出する17世紀以降のバロック美術にどのように継承されていくのかを再考し、近世イタリアの居室装飾史全体の見直しに繋がる新たな視座を提示することである。
研究計画上、2年目にあたる本年度は、夏期と春期の2回にわたり渡航調査を実施した。研究のおもな拠点は、ボローニャ大学附属の研究施設であるフェデリコ・ゼーリ財団図書館や、フィレンツェのドイツ美術史研究所である。夏の調査滞在時にはフィレンツェの同研究所において、研究員のヴィタリ博士から助言をいただくことができた。博士からはカラッチ一族と同世代の画家であるバルトロメオ・チェージによる暖炉絵画が近年調査・公開されていることをご教示いただいた。 夏の調査滞在ではまた、文化財保護局の協力を得て、ボローニャのダッラルミ=マレスカルキ宮殿に入館し、作品の見学および写真撮影を実施することができた。同館のオラツィオ・サマッキーニによる大型の暖炉上絵画は、枠組み装飾と共に現存している貴重な作例である。
2024年2-3月に実施した渡航調査(前年度の同課題22J00361からの支出)では、前年度にヴィタリ博士から情報を得たチェージの暖炉上絵画に関する調査に取り組んだ。同作はボローニャのアルベルガーティ宮殿の暖炉上に設置されていた作品だが、保存修復を経て現在は郊外のポレッティ・コレクションに所蔵される。滞在時にはポレッティ氏と連絡を取り、作品の実見および撮影を敢行した。また、アルベルガーティ宮殿の絵画装飾に詳しいベルサニ博士からも助言をいただき、装飾の写真を確認するほか、これまでの調査来歴書を入手することができた。
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