研究実績の概要 |
本年度は予期生起課題観察時の社会的文脈の処理について検討した。社会的文脈の処理として、顔刺激に対する顔反応領域の脳活動に着目し、時間的予期が生じる実験課題を行った。具体的には、予期に関する乳児の脳活動を計測した先行研究の実験方法(Mento & Valenza, 2016. Scientific Reports)を踏襲し、「いない・いない・ばあ」に模した実験刺激を繰り返し呈示し、「ばあ」の顔に対する時間的規則性に基づく予期が生じる実験課題を実施した。本研究では「いない・いない・ばあ」の顔が手で覆われている時間が短い条件と、長い条件を呈示し、時間的予期を誘発する課題を実施したときの生後 8 ヶ月の乳児の顔反応領域の血流動態を機能的近赤外分光法(fNIRS : functional Near-Infrared Spectroscopy)で計測した。その結果、顔が手で覆われている時間が短い条件では、実験全体を通して顔に特異的に反応する領域である右側頭部の酸化ヘモグロビンの濃度が有意に上昇した。一方、顔が手で覆われている時間が長い条件では、右側頭部の酸化ヘモグロビンの濃度は呈示した回数が少ないうちは変化がみられなかったが、繰り返し呈示した後ではの酸化ヘモグロビンの濃度が有意に上昇した。これは、顔が現れる規則を学習し、社会的文脈の処理が行われていた可能性を示唆している。以上より、8ヶ月の乳児は顔刺激の出現を予期し、顔反応領域の脳活動の変容が見られたと考えられる。 この成果は、fNIRS研究分野の世界最大規模の学会である、The Society for functional Near Infrared SpectroscopyのfNIRS2022大会で発表した。
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