研究実績の概要 |
近年、ブラックホールのHawking輻射およびそれに伴う情報喪失問題は現代物理学における大きな課題であり, Bose-Einstein凝縮体を用いた擬似ブラックホールの量子シミュレーションはブラックホールの量子的な性質を実験的に検証しうる系として注目を集めている. spin-1Bose-Einstein凝縮体を用いた擬似ブラックホールの研究に取り掛かるための準備として, spin-0Bose-Einstein凝縮体を用いた擬似ブラックホールの研究を行った. この系では, Bose-Einstein凝縮体が背景時空の役割を担い, Bose-Einstein凝縮体の量子化された音波(フォノン)が時空上の粒子の役割を担う. 光格子中のspin-0Bose-Einstein凝縮体はBose-Hubbard模型で記述される. Bose-Hubbard模型にBogoliubov理論とWKB近似を行うことでフォノンが擬似ブラックホールからトンネル効果によって脱出する確率を計算し, 光格子中のspin-0Bose-Einstein凝縮体を用いた擬似ブラックホールでも従来のセットアップと同様にHawking輻射が起きることを確認した. さらに, ブラックホール外部の粒子がHawkingの予言(プランク分布)に従うことも示した. また, Hawking輻射及びブラックホールの量子力学的な性質をより理解するために, Bose-Hubbard模型における量子エンタングルメントの時間発展の解析を行った. 具体的には, 強相関領域におけるBose-Hubbard模型のクエンチダイナミクスを有効理論を用いて解析し, doublon, holonと呼ばれる2種類の凖粒子がエンタングルメントペアを組み, その伝播によって系のエンタングルメント構造が説明されることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在, Bose-Hubbard模型にtime-evolving block decimationアルゴリズムを用いることによる擬似ブラックホールの第一原理シミュレーションに着手している. しかし, 計算コストの都合上, 粒子数の大きい系をシミュレートできないという問題があり, このシミュレーションにおいてはHawking輻射の証拠は未だ掴めていない. spin-1Bose-Einstein凝縮体のシミュレーションはspin-0Bose-Einstein凝縮体のそれよりも大きい計算コストを必要とするため, アルゴリズムやセットアップの改善が今後の課題となっている.
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今後の研究の推進方策 |
ボース粒子の粒子数保存則を取り入れたU(1) gauge symmetric time-evolving block decimationアルゴリズムを開発し, 計算コストの改善を図る. また, Peres- Horodecki separability criterionを本研究の系に拡張し, エンタングルメントの観点からHawking輻射の証拠を得る.
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