研究課題/領域番号 |
22KJ2775
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山鹿 汐音 中央大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 非平衡量子多体系 / 量子エンタングルメント / 量子ムペンバ効果 |
研究実績の概要 |
ブラックホールのホーキング輻射やそれに伴うブラックホールの情報喪失問題の理解は、量子力学と重力理論という現代物理学の基礎を整合させるための重要な課題であり、盛んに研究されている。特にボース-アインシュタイン凝縮体を用いた擬似ブラックホールのシミュレーションは、ホーキング輻射を実験的に研究できる系として大きな注目を集めている。ボース-アインシュタイン凝縮体を用いた擬似ブラックホールにおけるホーキング輻射を理解する上で、ブラックホールから放出されたホーキング粒子とそのパートナー粒子との間における量子エンタングルメントが重要となる。当該年度では、これを詳細に理解する目的で、非平衡量子多体系におけるエンタングルメントの振る舞いや、それに伴う緩和現象を理論的に研究した。具体的には、ハミルトニアンのパラメーターの急激な変化(クエンチ)によって時間発展する量子多体系において、量子エンタングルメントの定量指標であるエンタングルメントエントロピーを計算することで、非平衡量子多体系における量子エンタングルメントの振る舞いを研究した。その結果、クエンチされた2次元自由フェルミオン系では、ホーキング粒子とパートナー粒子のペアに対応する、反対方向の運動量を持った準粒子のペアが伝搬することで、量子エンタングルメントが成長することを解明した。また、同じく2次元自由フェルミオン系のクエンチにおいて、局所的な部分系内部の対称性の破れを定量化するエンタングルメントアシンメトリーを計算することで、初期時刻ではより定常状態から遠い系の方がクエンチ後により早く定常状態に緩和する量子ムペンバ効果と呼ばれるアノマラスな緩和現象が起きることを発見した. さらに、この系における量子ムペンバ効果の微視的起源やその発生条件も解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究テーマと深く関連しているが、当初の研究実施計画では予期していなかった研究において大きな進展があった(研究実績の概要参照)。本年度は、それらの研究にエフォートが大きく割かれたために、本来の目標であるspin-1ボース-アインシュタイン凝縮体を用いた擬似ブラックホールの量子シミュレーションについては、当初の計画よりもやや遅れている。しかし、本年度の研究成果は、本研究テーマを発展させるのに非常に重要であり、大きな意味を持つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究によって明らかとなった非平衡量子多体系での量子エンタングルメントの振る舞いや緩和現象に対する微視的理解を、spin-1ボース-アインシュタイン凝縮体を用いた擬似ブラックホール系に応用することで、ホーキング輻射や情報喪失問題に対する理解をさらに進展させる。
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