細胞外粒子(EV: Extracellular Vesicles)は生体内において細胞間の情報伝達を担っており、がんなどの様々な疾患に関与していることが近年の研究から明らかにされてきている。EVの粒子サイズや組成には多様性があることが報告されているが、その多様性の詳細と生物学的な意義や役割は分かっていない。これらを明らかにするためには多様なEV集団から特徴に基づいて特定のEVを選択的に集める方法が必要である。そこで本研究では、マイクロ流体デバイスを用いることでEVを単一粒子レベルで精細に計測・分類して選択的に分取することが可能なシステムを開発することを目指した。2023年度は前年度において開発した微粒子の計測・分取システムを最適化・性能評価し、EVへと応用できることを実証した。粒子の蛍光信号だけではなく計測後に粒子が封入される微小液滴の散乱信号を計測して液滴分取の時間調整に利用する新たなシステムを構築し、実験条件を最適化することで95%以上の成功率でターゲットである微粒子を含んだ液滴を選択的に分取することに成功した。また、直径数100nm程度の二種類の蛍光粒子を混合したサンプルに対し、計測された蛍光信号に基づいて片方の粒子のみを5000粒子/秒のスループットで選択的に分取できることを確認した。さらに、膜たんぱく質を蛍光染色したEVを計測して選択的に分取し、粒子サイズ計測やバイオアッセイによりEVがソート出来ていることを確認した。以上から本研究で開発したシステムがEV等の生体試料に対しても適用可能であることが示され、これまで困難であったマイクロ流体デバイスによるハイスループットな単一微粒子計測・分取を初めて実現した。開発したシステムはEVだけではなくウィルスやオルガネラのような様々な微粒子にも応用可能であり、医学・生物学の発展に大きく貢献することが期待される。
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