本研究の目的は,家族性パーキンソン病患者由来iPS細胞を用いることにより,疾患発症メカニズムを解明することである.家族性パーキンソン病の原因遺伝子であるVPS35遺伝子は,孤発性パーキンソン病の患者でも脳内の発現量が低下していることが知られ,神経変性疾患の病態解明に重要な遺伝子と考えられている.パーキンソン病の病態にはオートファジーが密接にかかわっているが,小胞体などを隔離膜の起源とする古典的オートファジーに対し,ゴルジ体が隔離膜の起源となるRab9依存性新規オートファジーも近年明らかとなり,神経変性疾患における新規オートファジーの役割の解明も急がれている.当研究室で作製した疾患および健常由来iPS細胞より,ドパミンニューロンを分化誘導,培養し,オートファジー障害に関する解析を行った.これまでの申請者の研究により,VPS35遺伝子変異は,Rab9小胞の細胞内輸送障害を引き起こすこと,Rab9依存性の新規オートファジーを抑制することなどが示された.さらに,新規オートファジー促進効果を持つエストロゲンは,VPS35遺伝子変異ニューロンの脆弱性を改善することをしめした。本結果は,パーキンソン病において新規オートファジーが重要な役割を果たしている可能性を初めて示したものである.今後の研究でも引き続き新規オートファジーに着目した病態解析を継続し,パーキンソン病におけるドパミンニューロンの神経細胞死のメカニズムについてより詳細な解明を目指している.
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