研究課題
ネガマイシン誘導体のリードスルー活性に関連する標的分子の同定を目的とし、アフィニティービーズの合成に着手した。前年度の構造活性相関研究より見いだされた、高活性誘導体TCP-306をリガンドとして磁気ビーズへの固定化を行い、COS-7細胞ライセートを用いたケミカルプルダウンを実施した。しかしながら、ネガマイシン誘導体に由来する特異的なバンドを検出することはできず、標的分子に関する情報は得られなかった。今後、ネガマイシン誘導体がタンパク質以外の分子を標的としている可能性も視野に入れ、引き続きリードスルー活性に関連する標的分子の同定を目指す。さらに本年度は、リードスルー作用の活性発現メカニズムの解明に迫るべく、ネガマイシン誘導体TCP-306がリードスルーを起こしやすい遺伝子配列的特徴(リードスルー特性)を調査した。リードスルーの起こりやすさ(リードスルー効率)は、i)PTCの種類、ii)そのmRNA上の存在位置、ⅲ)PTC周辺の塩基配列に大きく影響を受けることが知られている。筋ジストロフィーの原因遺伝子中のナンセンス変異配列13種を対象としたデュアルレポーターアッセイにより、遺伝子配列間および化合物間でのリードスルー効率を比較した。その結果、リードスルー化合物としてよく研究されているアミノグリコシドG418はDMD S319X(TGA-C)およびLAMA2 R1549X(TGA-C)配列に対し、比較的高いリードスルー効率を示した。一方、TCP-306はDMD R3381X(TGA-A)とLAMA2 C1546X(TGA-A)に対してG418を凌ぐリードスルー効率を示した。このことからネガマイシン誘導体はG418とは異なるリードスルー特性を示すことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度研究計画に記載の通り、ネガマイシン標的分子の同定を目的としたケミカルバイオロジー研究に取り組んだ。さらに本年度は、当初の研究計画に加え、リードスルーの作用メカニズム解明研究の一端として、ネガマイシン誘導体TCP-306がリードスルーを起こしやすい遺伝子配列的特徴(リードスルー特性)を調査した。具体的には、筋ジストロフィーの原因遺伝子中のナンセンス変異配列13種を対象としたデュアルレポーターアッセイにより、遺伝子配列間および化合物間でのリードスルー効率を比較した。その結果、ネガマイシン誘導体はアミノグリコシドG418とは異なるリードスルー特性を有していることを新たに見出した。リードスルー効率はPTCのみならずその周辺塩基配列によっても影響されることが報告されており、特にPTCの直後の塩基(+4 position)が重要とされている。G418が高活性を示したナンセンス変異配列DMD S319X(TGA-C)およびLAMA2 R1549X(TGA-C)は+4 positionがCであった。一方、TCP-306は+4 positionがAである、DMD R3381X(TGA-A)とLAMA2 C1546X(TGA-A)に対してG418を凌ぐリードスルー効率を示した。この結果から、ネガマイシン誘導体はTGA-A配列を有するナンセンス変異性疾患に対し、アミノグリコシドよりも高い効力を示す可能性が示唆された。本研究は、当初の計画に加えて実施した研究内容であり、リードスルー特性に関する重要な知見が得られたことから、研究は概ね順調に進展していると評価する。
ネガマイシン誘導体の標的分子の同定研究では、タンパク質以外の標的も視野に入れ、今後もケミカルバイオロジー研究を推進していく。さらに、本年度より開始したリードスルー特性に関する研究では、ネガマイシン誘導体のリードスルー効率とPTC周辺配列の関係に関して、より詳細な調査を実施していく予定である。リードスルーの起こりやすさ(リードスルー効率)は、i)PTCの種類、ii)そのmRNA上の存在位置、ⅲ)PTC周辺の塩基配列に大きく影響を受けることが知られている。本年度の研究成果から、PTC周辺の塩基配列、特に+4 positionの塩基配列がリードスルー特性に重要な役割を担っている可能性が示唆された。したがって、次年度は+4 positionの塩基のみを変化させたプラスミドを構築し、リードスルー効率の評価を行う。
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