研究課題/領域番号 |
21J21982
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
西岡 大貴 東京理科大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 人工シナプス / 固体電気二重層 / 固体電解質 / ナノイオニクス / ニューロモルフィックデバイス / 人工知能 / AIハードウェア |
研究実績の概要 |
本研究では固体電解質/半導体界面におけるイオンと電子の振る舞いを活用して、神経回路網が実現する複雑な挙動を再現する新方式の人工シナプス素子を開発しエッジAIデバイス等に応用可能な脳型コンピュータの実用化を目指す。 今年度は昨年度まで開発した固体電解質と半導体からなるトランジスタ型の人工シナプス素子が示す複雑多様な疑似神経応答を力学系の観点から詳細に解析を行い系のカオス性を評価した。その結果、特定の入力電気刺激に対する素子の応答が、一般に系の情報処理能力が最大化すると知られるカオスの縁状態にあることがわかった。これは、素子内部で情報担体となるイオンと電子が固体電解質/半導体界面で複雑に相互作用しながら振る舞い時間発展していくことに由来すると考えられ、昨年度までに確認された本研究における高い計算性能もカオスの縁状態に起因するものと考えられる。 加えて、今年度は素子作製のプロセス技術を見直しさらなる微細化と集積化を行った。その結果、素子のチャネル抵抗の軽減により、人工シナプス素子が実現する複雑多様な特徴を損なうことなく応答速度の向上させることに成功した。さらに、半導体材料を化学容量の大きい酸化物に変更することで、酸化還元型キャリア変調過程に基づく低速なシナプス動作を行うことも確認した。こうした素子の特徴を利用した幅広い動作速度変調は様々な速度帯の時系列情報をエッジAI端末等でその場処理するために有効な特徴である。また、人工シナプス素子の集積化を前提としたより複雑なシステム応答について効率的に学習を行うアルゴリズムの検討を行った。その結果、仮想的に配置された重みを学習によって調整することで計算性能の向上に成功し、単一の素子を利用する場合と比較しても非線形力学系の予測タスク等で高い性能を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、本年度の目標は次の2点であった。 (1)初年度に開発した人工シナプス素子の基本的な特性評価行うこと。 (2)それを利用した計算性能評価を行うこと。 これらの目標はすでに昨年度に前倒しで概ね達成していたので更に追加の目標として(3)実用化に向けて集積化に向けた検討を行うこと(4)および集積化に適した学習アルゴリズムに関する検討を行うことを設定していた。 結果として、今年度はこれらすべての目標を達成することに成功した。加えて、今年度は素子が実現する高性能性の起源を探るために、素子が示す複雑多様な特徴を高次元力学系の観点から詳細に解析し、固体電解質/半導体界面におけるイオンと電子の相互作用が高い計算性能をもたらす複雑な挙動の根源であることを確認した。これらの結果は本方式における人工シナプス素子開発において今後の指針となる結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は素子の高性能性の起源を探る検討に加え、微細化・集積化に関するプロセスと動作速度、学習アルゴリズムに関する検討を行った。今年度のこうした検討は、本方式における人工シナプス素子の性能向上に向けた指針となる結果を提供した。具体的には、人工シナプス素子が示す複雑多様な神経応答は、固体電解/半導体界面におけるイオンと電子の相互作用及びそれらの動的な時間発展に由来しているということがわかった。こうした原則は、素子が実現しうる複雑性(カオス性)・記憶性能・動作速度全てに影響を及ぼしていると考えられる。したがって、脳型コンピュータ実現に向けて飛躍的にこれらの性能を向上させるためには、イオンと電子の相互作用を制御することが重要であり、そのために異なるイオン種や半導体材料を活用した動作特性の制御を行っていきたい。
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