研究課題/領域番号 |
22KJ2802
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山岸 弦記 東京理科大学, 先進工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | エストロゲン / g6pc1 / 卵胞サイクル / 遺伝子発現制御 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、前年度に得られたソメワケササクレヤモリの基礎データをもとにして、血中E2濃度に応じたg6pc1重複遺伝子の動態と、それによって肝臓で引き起こされる代謝経路変化の解明を目指した。 前年度の実験では、約1か月の短日低温処理で卵胞の退縮を引き起こすことができたが、本年度の実験では卵胞退縮に至らない個体がみられた。そこで、卵胞が退縮した個体と退縮しない個体の双方で血中E2濃度を測定したところ、いずれも血中E2濃度が低下していることを確認した。このことは、短日低温処理で非繁殖状態を誘導できていることと、非繁殖状態への移行が必ずしも卵胞退縮を伴わないことを示唆する。一方、ニホンヤモリとヒョウモントカゲモドキでは、非繁殖期に卵胞が退縮する(Ikeuchi, 2004; Rhen et al., 2000)。これらの知見は、昨年度に得られた繁殖中の血中E2とg6pc1の発現動態のデータとともに、論文投稿を予定している。 また、血中E2濃度と相関して変動する代謝系を探索するため、RNA-seqを実施した。E2濃度が最も高くなる卵胞期の個体と、最も低くなる非繁殖状態の個体から肝臓をサンプリングし、RNA抽出して解析を委託した。現在、納品済みデータを解析し、血中E2濃度やg6pc1発現と相関する代謝経路を探索している。 エストロゲン応答性の転写制御領域の同定について、ヒョウモントカゲモドキg6pc1重複遺伝子の上流配列クローニングを行った。現在までに、各重複遺伝子の上流約2kbpの配列をルシフェラーゼアッセイ用ベクターに組み込むことができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エストロゲン応答性の転写制御領域の同定については、前年度から続いてソメワケササクレヤモリg6pc1重複遺伝子の上流配列クローニングを行った。前年度にPCR増幅した各重複遺伝子開始コドンの上流配列を発現ベクターに組み込み、形質転換した大腸菌から回収を試みた。このうち、g6pc1-1の上流3kbpを組み込んだベクターは大腸菌から十分な収量を得た。しかし、もう一方のg6pc1-2については、開始コドン上流2kbpを超える長さでベクターに組み込んだ場合、形質転換した大腸菌を殖やすことができなかった。上流1kbp以内では問題を生じなかったことから、上流1-2kbpの間に大腸菌の増殖を阻害する配列が含まれていると考えられる。この問題から、今後は動物種をニホンヤモリとヒョウモントカゲモドキに変更して配列クローニングを行う予定である。このうちヒョウモントカゲモドキでは、重複遺伝子のそれぞれについて、上流約2kbpの配列をPCR増幅できている。 アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いたg6pc1遺伝子の発現操作については、爬虫類の胚で実績のある血清型1と10のAAVを選択したが、これらのAAVを腹腔経由でソメワケササクレヤモリに投与しても、低い感染効率しか得られなかった。一方、同じウイルスをヒョウモントカゲモドキに投与したところ、良好な感染効率を得ることができた。この動物は研究室内で系統を維持しており、低温インキュベーター中で擬似的に季節変化を経験させることで、通年繁殖を実現している。さらに、麻酔下での採血や組織サンプリングが可能なため、in vivoでの実験はヒョウモントカゲモドキで重点的に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) ヒョウモントカゲモドキの配列を用いて、g6pc1重複遺伝子の転写制御領域を同定する 2) ヒョウモントカゲモドキでAAVを用いた遺伝子発現操作を行い、繁殖(総産卵数・重量)と生存活動(血糖値、行動量)それぞれへの影響を解析する。 3) 上記2)について、遺伝子発現操作により肝臓で起こる代謝経路の変化をRNA-seqで解析する。 なお、2)と3)に関して、ヒョウモントカゲモドキでは頻回採血や開腹手術方が確立されている。そのため、同一個体内で起こる血糖値や肝臓の遺伝子発現の変化を継時的に追うことができると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
ルシフェラーゼアッセイと、アデノ随伴ウイルスによる遺伝子発現操作の実験に遅れが生じたことにより、これらの実験に予定していた額が未使用となった。この分については、実験に遅れを生じていた要因を解決したことで、2024年度に使用を予定している。
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