研究課題/領域番号 |
22J12152
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大貫 良輔 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 球状コロイドクラスター / 構造色 / 形成過程 / コロイド結晶 / 正二十面体 / 十面体 / 光学材料 / フォトニック結晶 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実施計画に基づき、蒸発過程における球状コロイドクラスターの結晶化の様子の直接観察を行った。そのために、倒立顕微鏡を用いて、3つの照明条件下で観察するシステムを構築した。明視野照明下では液滴からの反射の様子を観察することができ、結晶化のタイミングや結晶構造を判断することができる。例えば、液滴の中心に小さな反射スポットが現れるのはオニオン構造であり、三角形の反射形状は正二十面体構造の特徴である。暗視野照明下の観察は、明視野照明下では拾うことができなかった斜め方向の反射を観察するために実施した。蒸発過程中の液滴の一連の観察より、始めに液滴の界面から結晶化し、オニオン構造の特徴である反射スポットが観察された。その数分後に、今度は内部から結晶化が起こり、正二十面体、十面体、FCC単結晶構造のいずれかの反射パターンに切り替わることが分かった。すなわち、内部の結晶化において正二十面体や十面体、FCC単結晶構造を分岐させていることが示唆される。また、透過照明下での観察では液滴の収縮速度を解析できるため、結晶化が生じる粒子の体積充填率を計算できる。その結果、0.45から0.50付近の充填率において結晶化が生じることが分かった。以上のように、目的の一つであった球状コロイドクラスターの形成過程を観察する光学系の準備は整っており、少しずつ観察および解釈が進んでいる。 また、形成過程の直接観察における構造を把握するうえで重要となる各構造の光学特性についても研究を行った。特にこれまで明らかにされていない十面体構造の光学特性について詳細に調査した。十面体構造のクラスターは雫状や半月状の反射パターンがクラスターの向きに依存して観察され、結晶ドメインの境界部分でより長波長の光を反射する。この境界部の反射はHCP構造からの反射であることを実験的および理論的に見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況として、球状コロイドクラスターの形成過程を観察する光学系の準備は整っており、実際に観察を始めている。また、当初の計画に従い、構造の形成過程についても、結晶化が生じる体積充填率や結晶化が始まる位置、結晶構造の判別などの解釈が進んでいる。しかし、もう一つの目的である、クラスターの構造に影響すると考えられている液滴の蒸発速度と構成粒子数との間の相図におけるこれらの構造の相境界は決定できていない。 また、採用前に引き続いて、正二十面体と十面体構造の球状コロイドクラスターの光学特性に関する研究を行った。我々が作製したクラスターの中に正二十面体構造を有する非常に巨大な球状クラスターがいくつか発見された。正二十面体構造のクラスターは三角形の反射パターンを持つが、この三角形内の反射スペクトルを細かく測定すると、ピーク波長が三角形の位置に依存して変化することが分かった。三角形の中心ほど長波長になる傾向があり、この波長変化を説明するための新たな構造モデルを提案した。この成果については日本物理学会や日本化学会で研究発表し、論文として発表した。十面体構造のクラスターの光学特性も順調に研究が進み、結晶ドメイン境界部分のHCP構造からの反射が生じることを見出した。 光学特性の解析に加えて、クラスターの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察し、構造の分類を行った。その結果、クラスターの構造は全7種類に分類され、新たに微結晶凝集体構造を示した。この構造はオニオン構造のクラスターとその表面構造は同じであるため、走査型電子顕微鏡を用いた観察では両者を区別することはできない。したがって、断面観察はクラスターの構造同定において重要であることが分かった。この成果は現在論文として投稿し、修正中である。以上のように、研究は順調に進んでおり、成果の発表も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度においては、内部の結晶化における正二十面体、十面体、FCC単結晶構造がどのように決められるのかについて、特にクラスターの構造に影響を与える液滴の蒸発速度と構成粒子数について相図の相境界を調べる。蒸発速度は溶媒の温度を変えたり、溶媒への水分子の拡散を調節したりすることで行う。オニオン構造や正二十面体構造、FCC の単結晶構造からは異なる反射パターンが得られるため、2022年度に構築した光学系を用いて明視野照明と暗視野照明の観察から結晶構造の区別と結晶方位を調べることが可能である。そこで、様々な蒸発速度での観察からこれらの構造の相境界を決定する。また、液滴のサイズや粒子濃度を変えることで液滴内のコロイド粒子数を調節することができる。そこで、構成粒子数の違いによる構造の影響も同時に調べる。これらの実験から、球状コロイドクラスターの構造における液滴の蒸発速度と構成粒子数の関係を明らかにする。 さらに、2022年度の観察からコロイド粒子のサイズも構造に影響するデータが得られた。粒子径が大きいと正二十面体構造の割合が大きくなり、一方で粒子径が小さいとFCC単結晶構造や十面体構造の割合が増加する傾向があることが分かった。現状では球状コロイドクラスターの作製において液滴の蒸発速度や構成粒子数を大まかにしか制御していないため、相境界の決定の観察でも用いる蒸発速度と構成粒子数の制御を利用して、コロイド粒子サイズと構造との関係も明らかにしていく。 以上の得られた研究成果を取りまとめ、国内および国際学会において発表を行い、学術論文として投稿する。
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