研究課題/領域番号 |
22J12499
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
篠木 正隆 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 超新星背景ニュートリノ / スーパーカミオカンデ / 超新星爆発 / 中性子捕獲 |
研究実績の概要 |
大質量の恒星は超新星爆発を起こしてその最期を迎えるが、その爆発のエネルギーの99%以上はニュートリノによって放出される。過去の超新星爆発で放出されたニュートリノは現在も宇宙空間を満たしており、これは超新星背景ニュートリノと呼ばれる。超新星背景ニュートリノを実験で測定できれば、超新星爆発の機構や恒星進化への理解が大幅に進むが、観測は難しく現在のところ未発見である。本研究では、大型水チェレンコフ検出器スーパーカミオカンデを利用する。スーパーカミオカンデではガドリニウムを水中に添加し、バックグラウンドとの識別性能を向上する検出器の改良がなされた。改良後の新しい観測データを解析して超新星背景ニュートリノを発見することが本研究の目的である。 2022年度の成果のひとつとして、ガドリニウムを導入したスーパーカミオカンデの観測データを解析し、宇宙線ミューオン起源の中性子生成率の測定を実現した。中性子検出効率の向上によるバックグラウンドの削減を目的とし、ガドリニウムを導入したが、この研究成果により、ガドリニウムを導入したスーパーカミオカンデによる高い中性子検出効率が実証され、超新星背景ニュートリノ探索が実現可能であることが確認された。研究結果は論文にまとめ、学術雑誌へ投稿した。 さらに、超新星背景ニュートリノの探索感度を制限するバックグラウンドであるリチウム9の測定を行った。スーパーカミオカンデに飛来する宇宙線ミューオンが形成するシャワーは、水中の酸素原子核を破砕して不安定核を生成するが、特にリチウム9の中性子を伴うベータ崩壊事象は超新星背景ニュートリノ事象と酷似しており、除去が難しい。2022年度はリチウム9のベータ崩壊で放出される電子のエネルギー分布を測定し、その成果を日本物理学会などで報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず一つ目の成果として、ガドリニウムの導入したスーパーカミオカンデの観測データを解析し、宇宙線ミューオン起源の中性子生成率の測定を行った。この研究成果により、ガドリニウムを導入したスーパーカミオカンデによる高い中性子検出効率が実証され、超新星背景ニュートリノ探索が実現可能であることを確認できた。また、これはガドリニウム導入後の最初の物理測定結果であり、論文にまとめ、学術雑誌へ投稿した。 二つ目の成果として、同じく宇宙線ミューオン起源のリチウム9の測定を行った。特にリチウム9の中性子を伴うベータ崩壊事象は超新星背景ニュートリノ事象と酷似しているため除去が難しく、探索感度を制限する。2022年度はリチウム9のベータ崩壊で放出される電子のエネルギー分布を測定した。特に、当初の目標であった5MeV付近までエネルギー閾値を落として測定を実現し、その結果は日本物理学会などで報告した。 以上の研究成果から、本研究は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2022年度に確立したリチウム9の測定手法を用いて、リチウム9の生成率を測定する。その測定結果を利用することで、超新星背景ニュートリノの信号候補の中に、リチウム9由来の事象がどの程度混入しているかを見積もることができる。最終的には、超新星背景ニュートリノ探索における信号の有意性やフラックス上限値の評価に繋がる。 また、本解析では従来よりもエネルギー閾値を下げてリチウム9の測定を行っているが、この手法を超新星背景ニュートリノ探索にも適用するための解析ツールの開発を進める。低エネルギー側に探索領域を拡張した上で、スーパーカミオカンデ共同研究者グループとして最終的な探索結果を出す予定である。
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