未だ観測されていない陽子崩壊事象の観測は、現在の素粒子物理学における標準模型を超えた模型である大統一理論の直接的な証拠となる。本研究では、現在世界最大の水チェレンコフ検出器であるスーパーカミオカンデ検出器において、陽子がミューオンと中性K中間子に崩壊する事象の探索を行った。この崩壊モードは過去にスーパーカミオカンデにおける観測データを用いて探索されたが、統計的に有意な信号事象は観測されず、寿命の下限値に1.6×10^{33}年の制限が課せられていた。本研究では、事象再構成アルゴリズムを改良し、対象とした陽子崩壊事象における特徴の一つである、異なる発生点から発生する粒子に対する再構成精度の向上を実現した。また、実験データをもとにK中間子の散乱断面積のモデルを改良し、結果として系統不確かさを抑えることに成功した。これらの改良に加え、過去の解析の約2倍の観測データを解析することで、測定感度を大幅に向上して探索を行なった。 探索の結果、最終サンプルに統計的に有意な信号事象は観測されなかったが、許容されるミューオンと中性K中間子への陽子崩壊寿命の下限値に対し、3.6×10^{33}年の制限が与えられた。これは過去の探索結果による寿命の制限値を2倍以上更新する世界で最も厳しい制限である。 この陽子崩壊探索の結果はスーパーカミオカンデコラボレーションの論文としてPhysical Review D誌より公表した。
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