研究課題/領域番号 |
22KJ2817
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
関根 將弘 東京理科大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 航空交通管理 / 航空管制 / 到着管理 / 複雑系 / ヒューマンインザループシミュレーション / シミュレーション実験 / 設計工学 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,機械学習と高度なルールに基づく全体最適な航空交通システムを構築することである.特に,到着管理システムにおいて,前年度に決定木により抽出した速度制御ルールと滑走路割り振りルールを組み込むことで,システムの有効性を評価し,実現可能性を検証することが本年度の主たる目標であった. 到着管理システムでは,まず,単位時間あたりの滑走路流量に基づき滑走路の割り振りを行う.その際には,着陸後の地上走行時間を最小化するような到着滑走路を割り当てる.その後,局所的な航空機同士の間隔や混雑度を指標として,一部の航空機を減速させることにより,航空機の相対的な間隔を制御する. 提案アルゴリズムの有効性をファストタイムシミュレーションで評価した結果,上空の遅延時間を平均1分程度,地上の遅延時間を30秒程度削減できることが明らかになった.さらに,提案アルゴリズムの実現可能性を評価するため,対象空域を管轄する管制機関の協力を得て,ヒューマンインザループシミュレーション実験を行った.この実験では,実際に対象空域を担当している管制官が被験者としてリアルタイムシミュレーションに参加した. 実験の結果,管制官2名からは,「提案アルゴリズムにより速度指示や滑走路選択が作業量として許容できる」,「順序付けの判断に迷った際の指標になる」といった肯定的な意見を得ることができた.さらに,定量的な数値として,提案アルゴリズムにより,当該空域の遅延時間を19機あたり13分,管制指示回数を20%削減できることが明らかになった. これらの成果は,提案システムの導入により,管制官の作業負荷を軽減することで,航空交通の運航効率性や安全性を向上させることが可能であることを示している.従来研究との違いは,新しい航空交通システムの概念設計だけでなく,現場を通じて社会実装へ橋渡しするプロセスにあり,その点で本研究の重要性が高い.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記載の通り,当初予定していた進捗状況を実現しており,結果を国際学術誌論文1篇や学会発表論文4篇等にまとめて発表するなど,研究成果の公表も順調である.これらに加えて.複数の研究内容に関して,数本の学術誌論文を準備中,次年度の対外発表が予定されている.2023年度も初年度同様に全体として予定通りに研究を推進できた.以上,研究の進捗は順調であったと考えている. ルール抽出手法について,本年度中に,機械学習手法の一つである学習分類子システムのツール構築が完了しており,決定木では困難であった減速量を考慮した速度制御ルールの初期的な抽出に成功している.道具整備ができた一方で,1ケースに対して1週間程度と予想外に計算時間を要したため,早期の成果創出は困難な状況にある.可能な範囲で計算時間短縮の準備作業を進めているが,研究遂行に大きな支障が出る可能性が残る.ただし,2023年度構築したシステムが研究目的を概ね達成することが示せたため,研究全体として大きな支障にはならないと考えている.以上,予備的な計算実験実施など順調に研究活動が実施できている. 最終年度に向けた準備を行っているが,本研究の中核は,ヒューマンインザループシミュレーション実験により,提案システムの運用実現性評価を行うことにある.ユーロコントロールイノベーションハブ実験研究所のご支援により,シミュレーション環境の整備が円滑に進んだ.提案システムによる支援画面の設計および実装もシステム開発メーカのご支援により2023年度中に完了した.また,管制機関のご協力もあり,実験対象空域を実運用で担当している管制官の手配,実験場所や日程の確保も前倒しして実施できた.以上,関係各所と連携し,研究目的の達成に向けて着実に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定から大きな変更はない.今後も研究計画に沿って,機械学習と高度化されたルールに基づく全体最適な航空交通システムを構築することを目指した研究を実施する. 提案システムの有効性評価については,2023年度実施したヒューマンインザループシミュレーションにより,提案システムの一定の実現可能性が得られている一方で,到着空港近傍空域の遅延削減効果については明らかにされていない.そこで,ヒューマンインザループシミュレーションの出力データを,羽田空港到着交通流を再現した高速シミュレーションの入力データにして,シミュレーションの実施に取り組んでいる. 提案システムの実現可能性評価についても,滑走路割り振りによる隣接空域における高度処理の影響が明らかになっていない.「到着滑走路が異なる交通流同士が高度で干渉し合う可能性がある」というフィードバックを,2023年度の実験で管制官からご指摘いただいている.従って,ヒューマンインザループシミュレーション環境を隣接下流空域へ拡充することを考えている.そのために,引き続き関係各所と連携しながら,シミュレーション環境の拡充を進めたいと考えている. 学習分類子システムによるルール抽出については,ルールのロバスト性(一般性)強化のため,学習データを追加することを考えている.現在は10月の特定日における多目的最適化結果をもとにルール抽出を行っている.そのため,他の季節における遅延時間短縮効果が限定的になっている.そこで,他の各月のデータを追加した上でルール抽出する.ただし,現状のデータ量で学習に1週間程度を要するため,計算時間が大きな課題となる. 以上の推進計画により得られた結果等をもとに,2023年度までに提案した航空交通流モデルを発展させて,より良い航空交通システムを提案し,研究成果を学術論文などにまとめて積極的に公表する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
英語論文についての校正費および投稿費は,今年度末までの投稿準備に遅延が生じ,完了しなかったため,計上しなかった.これについて,ヒューマンインザループシミュレーション実験において,実験機材の不具合等でデータ取得が不十分な実験が数回生じ,年度末まで再実験を行う必要があったことが要因となっている.したがって,次年度使用額について,現在準備中の英語論文の英文校正費および投稿費に支出予定である.
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備考 |
東京理科大学報 第230号 STUDENT LABO,p.p. 09,2023年7月.
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