研究実績の概要 |
本研究では食品の加熱調理・加工時に起こる化学反応(メイラード反応)で生成する香気成分の吸入による寿命への影響について検討を行っている。本年度は、寿命を指標とした老化研究で広く用いられるモデル動物である線虫C. elegansを用いて、リジンとグルコースから調製したメイラード反応生成香気の曝露による影響について検討した。 線虫は嗅覚に優れ、香気成分によって嗜好が異なり、走化性行動(誘引あるいは忌避)が変化することが報告されている。このような嗜好の違いは、寿命に大きな影響を及ぼすものと考え、線虫のメイラード反応生成香気に対する嗜好を検討した。その結果、未加熱のメイラード反応試料に対して目立った行動の変化は認められなかったが、加熱後の試料に誘引行動を示すことが判明した。この誘引行動は揮発性の物質に対するものであり、線虫における嗅覚シグナル不全を呈する変異体(odr-3)では見られないことから、嗅覚系を介してメイラード反応生成香気に対する誘引行動が引き起こされていることが考えられた。さらに、このメイラード反応試料中の主要香気成分である2,3-dimetlylpyrazine, 2,3,5-trimethylpyrazine, 2,5-dimethyl-4-hydroxy-3(2H)-furanone (DMHF)を選抜し、同様に走化性行動の実験を行ったところ、すべての物質に対して線虫は誘引行動を示したが、その中でもDMHFに対する反応が最も高かった。 続いて、線虫にメイラード反応生成香気を継続的に曝露し、線虫の寿命を計測したところ、対照群と比較して寿命延長効果が認められ、さらには加齢に伴う運動性の低下についても、香気曝露を行った線虫で改善された。
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