研究実績の概要 |
本年度は、モデル動物である線虫C. elegansにおけるメイラード反応生成香気の曝露による抗老化作用の分子メカニズムの解明について検討した。 昨年度の成果より、メイラード反応生成香気の曝露により野生型線虫の寿命が延長されることを見出した。これには加齢に伴うストレスへの抵抗性が関わっていると考え、ストレスへの抵抗性について測定を行った。線虫へのメイラード反応生成香気の嗅覚刺激は、対照群と比較してストレス(酸化あるいは熱)に対する生存率を上昇させた。線虫において、ストレス抵抗性に影響するものとして、インスリン/IGF-1やAMPKのような各種シグナル伝達経路への影響が挙げられた。そこで、メイラード反応生成香気に曝露した線虫を回収し、RNA抽出および逆転写反応を経て作成されたcDNAを用いて定量PCRの解析に供した。その結果、熱ショック転写因子であるHsf-1およびその標的遺伝子であるHsp-12.6, Hsp-70のmRNA発現の上昇が認められた。さらに、抗酸化酵素であるカタラーゼ(Ctl-1, 3)の発現も上昇していた。すなわち、これら遺伝子発現の上昇が線虫のストレス耐性の向上に貢献し、結果的に抗老化作用を示すことが推察された。 次に、HSF-1を欠損した突然変異体(sy441)を用いて、嗅覚刺激に伴う寿命を測定したところ、寿命の延長は見られなかった。また、上記の遺伝子発現の変化も消失することが判明した。つまり、メイラード反応生成香気による抗老化作用には、Hsf-1を介した熱ショック反応に関連する遺伝子が関与することが示された。一方で興味深いことに、揮発性成分に対する応答が消失する突然変異体odr-3 (n2150)における定量PCR解析では、Hsf-1, Hsp-12.6, Hsp-70の発現上昇は認められなかったものの、Ctl-1,3は依然として高値を示した。このことより、カタラーゼに関する遺伝子発現上昇には嗅覚系とは独立したメカニズムが関与していることが示唆された。
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