本研究課題は、小胞体で作られるはずのステロールエステルが色素体由来のオルガネラであるエライオプラストに蓄積するタペータム細胞に着目し、植物のオルガネラ間ステロール輸送がどのように行われているのか、形態面から明らかにすることを目指した。この目的を達成するために、膜の観察に適した化学固定法と生体内に近い構造を観察出来る加圧凍結固定法を併用して、野生型とステロール生合成異常変異体の葯の発達過程におけるTEM像を新たに取得した。これまでタペータム細胞で膜構造の詳細を把握出来るTEM像を得ることは難しかったが、固定剤などを工夫した化学固定によって、小胞体膜やエライオプラストの内膜構造をより鮮明に観察することに成功し、小胞体膜と色素体膜に密接な接触があることを発見した。最終年度はこの接触が一点のみではなくある程度の領域で見られることを明らかにした。また、内包膜から伸びた内膜構造にステロールエステルの蓄積部位と考えられる内部顆粒が形成される様子、内膜構造と内包膜、内部顆粒間に繋がりがある様子などを捉えた。一方変異体では内部顆粒が潰れるのみでなく、それに繋がる内膜構造に異常が現れることから、この内膜構造はステロールエステルの内部顆粒への蓄積に重要であると思われた。これら一連の構造は加圧凍結固定法でも同様に確認しており、ステロール輸送マシナリーであると考えている。さらにタペータム細胞では、ステロール骨格形成が実際にどのオルガネラで行われるのか調べるために、GFP蛍光を用いた細胞内局在解析も行なった。最終年度ではステロール骨格生合成酵素のN末端にGFPを融合したタンパク質が、葉緑体の内部もしくは周辺に局在するように見える驚くべき結果を得た。これは本研究で得た結果と合致するものの、ステロール生合成は全て小胞体で行われるという今までの常識を覆す結果であり、今後慎重に再現性の確認を行う予定である。
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