化学反応,生物種間の生存競争,細胞性粘菌の集中体形成といった諸現象は,各々偏微分方程式を用いてモデル化されている.偏微分方程式の解を調べることは多様な現象の複雑さや豊かさを理解する上で重要な問いである.しかし,一般的に偏微分方程式には解の公式なるものが存在しないため,解を既知関数で表現することは期待できない.そこで,(1)適切であるか,(2)時間大域的に存在するか,(3)解のダイナミクスの定性的な情報を得ることはできるか,(4)数値シミュレーションを援用した解の可視化やそのスキームの開発ができるか,という代表的な問いの解決といった研究にシフトしているのが現状である.多くの研究成果がこれまで残されている反面,特殊な解(定常解,進行波解,自己相似解)に限ったとしてもこれらの問題への完全な解答がなされているわけではない.特に(2)で方程式によって起こりうる有限時間特異性,(3)で起こるうる複雑な解の挙動や特異な挙動,豊かな解構造の変化は,いずれも数学解析の開発含め多くの未解決問題を生み出している.本研究では,負冪の非線形性を有する反応拡散方程式,退化型の拡散を有する反応拡散方程式,走化性項を有する反応拡散方程式を対象として特殊な解に限定して,その存在や諸性質,分類に関する結果を統一的な手法により部分的に多くの成果を残した.本研究では従来の関数解析学的な手法を用いず,方程式の構造に着目し,特殊解の満たす相空間の無限遠を手許に手繰り寄せるような力学系理論と幾何学的アプローチを融合したポアンカレ型コンパクト化の誘導する無限遠ダイナミクスというキーワードで統一的に理解し,解に対応する無限遠を含む平衡点や軌道の分類問題に問題を帰着させた点で新しい.偏微分方程式の解のダイナミクスの理解に新たな視点を与える結果を多く残した点で非常に意義深い研究成果であると言える.
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