研究課題/領域番号 |
21J20651
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
片山 徳賢 明治大学, 明治大学大学院農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / アルギニン生合成 / Synechocystis |
研究実績の概要 |
光合成を行う細菌であるラン藻は、二酸化炭素から食品添加物やバイオプラスチック原料などの有用物質を生産することが出来る。しかし、ラン藻の代謝メカニズムに関する生化学的な知見は、大腸菌や酵母よりも不足している。ラン藻による有用物質の生産性を向上させるために、代謝メカニズムの解析と理解が重要である。本研究では、モデルラン藻であるSynechocystis sp. PCC 6803(以後シネコシスティス)のアスパラギン酸やグルタミン酸、フマル酸といった代謝物が関係するアルギニン生合成系に着目した。 本年度は、アルギニン生合成系の律速段階の一つであると言われているアルギニノコハク酸シンテターゼの生化学解析を行った。シネコシスティスのアルギニノコハク酸シンテターゼの酵素活性の測定法については、前年度確立にしており、複数基質に対する酵素反応速度論的なパラメーターを取得した。その結果、アルギニノコハク酸シンテターゼの比活性は、既に報告されているアルギニン生合成におけるフィードバック阻害を受ける酵素であるNAGKの比活性よりも1/10程度低いことが分かった。この結果は、シネコシスティスにおいてもアルギニノコハク酸シンテターゼが、アルギニン生合成系の律速段階であることを示唆している。また、代謝物を添加した場合の酵素活性においても、アルギニンによって顕著に阻害されていたことから、アルギニン生合成系はフィードバック阻害だけでなく、その生合成系を包括的に制御されている可能性を示唆した。 続いて、これまで生化学解析を行ったアルギニノコハク酸リアーゼやアルギニノコハク酸シンテターゼを過剰発現させた株を構築し、元株であるGT株との生育速度の差異や細胞内代謝産物の定量を行った。その結果、窒素源を硝酸からアルギニンに変更した際に、これら3つの株において、細胞内のアスパラギン酸が有意に増大していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、モデルラン藻のアルギニノコハク酸シンテターゼの酵素速度論的な特徴と共にアルギニンからの阻害を受けていることを明らかにした。これまでラン藻のアルギニン生合成においては、生合成の出発点近くの酵素がフィードバック阻害によって制御されていることが報告されており、前年度の成果によってアルギニン生合成の一部であるオルニチン回路内部の酵素でも、アルギニン濃度によって活性が制御されていることを示唆する結果を発表した(Katayama and Osanai, 2022)。今回の結果では、アルギニン前駆体を合成する酵素もアルギニンによって阻害されていることが分かり、オルニチン回路全体もアルギニンによって活性が制御されていることを示唆する結果を得た。本研究成果は、ラン藻のアルギニン生合成の特徴を部分的に解明し、これまで報告されていたフィードバック阻害だけでなく、オルニチン回路全体を包括的に制御している可能性を示唆する。また、これまで生化学解析を行ったアルギニノコハク酸シンテターゼ及びアルギニノコハク酸リアーゼを過剰発現させた株を構築し、生育速度や、アミノ酸量を定量した。その結果、アルギニノコハク酸シンテターゼを過剰発現させた株では、元株であるGT株と比較して同じ培養時間で達する生育密度が約1.5倍高いことが分かった。この原因を現在解析中である。また、窒素源を硝酸からアルギニンに変更した場合に、細胞内のアスパラギン酸が有意に増大した。これは、ラン藻が培地中のアルギニンを吸収することによって、細胞内ではアルギニン生合成が阻害され、基質であるアスパラギン酸が使用されなかった結果であると考えている。しかしながら、アルギニン生合成遺伝子の過剰発現が光合成や有機酸生産に対して影響を与えているかの分析が進んでいないため、研究計画全体ではやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画に従い、構築した遺伝子過剰発現株の培養及び解析を行うことで、これらの遺伝子の過剰発現が代謝及び増殖速度に及ぼす影響を調べていき、これまでの研究から知見を活かし、新たな課題の探索を行うこととする。また、今年度は本研究の最終年度であるため得られた成果を学術論文として投稿する。
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