研究課題/領域番号 |
21J20926
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
桐野 巴瑠 明治大学, 明治大学大学院農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | マツ枯れ / マツノザイセンチュウ / クロマツ / 形質転換 / 分子機能解析 / 分散型幼虫誘導条件 / 種間比較 / マツノマダラカミキリ |
研究実績の概要 |
マツノザイセンチュウはマツ材線虫病(マツ科樹木の感染症)の病原体であるが、宿主であるマツを後食するマツノマダラカミキリ特異的に媒介されることで、効率よく新たな宿主マツへと移動を行う。本病を防除するためには、線虫の宿主マツに対する病原力だけでなく、媒介カミキリムシを介した分散能力を調査し、線虫・宿主マツ・媒介カミキリムシの三者関係を総合的に理解する必要がある。 申請者らはこれまで、ウイルスベクターを利用することでマツノザイセンチュウの病原候補因子の分子機能を解析する新規手法を開発してきた。本研究内容に関して、国際学会で発表を行い、また、内容をまとめた論文は当該年度において受理されている。 次に、マツノザイセンチュウが媒介カミキリムシに便乗する際に移行する特殊な生育停止ステージ"dauer幼虫"に着目し、その誘導機構を分子レベルで解明することを目指した。当該年度では、分子機能解析手法が確立しているマツノザイセンチュウの近縁モデル線虫オキナワザイセンチュウを利用し、そのdauer幼虫誘導条件の探索を行った。実験の結果、同種の水溶性フェロモンを添加した培地上でオキナワザイセンチュウを培養した際に、全体の27%がdauer幼虫へと移行し(t-test; **P<0.01)、この際高温ほどdauer幼虫の誘導率が高くなる傾向が見られた。また、マツノマダラカミキリが羽化するまで共培養した結果、全体の23%がdauer幼虫へと移行した (t-test; **P<0.01)。以上より、オキナワザイセンチュウにおけるdauer幼虫の誘導には線虫の水溶性フェロモンおよび昆虫由来の物質の両方が関与していることが明らかとなった。本研究内容に関しては、2件の国内学会で発表を行い、1件の口頭発表賞を受賞している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者らはこれまで、ウイルスベクターを利用することでマツノザイセンチュウの病原候補因子の分子機能を解析する新規手法を開発してきた。実際の宿主であるクロマツの遺伝子操作による機能解析手法は、他研究者が全く手を付けていない新たなアプローチであり、今後マツ枯れの病原因子をスクリーニングする上で有力なツールとなることが予想される。一方で、本手法では外来遺伝子および内在性マーカー遺伝子の発現量にばらつきが大きいなどの制約を抱えており、マツノザイの分子機能を調査するためには、想定以上の反復を要することが明らかになった。マツノザイセンチュウは、宿主であるマツを後食するマツノマダラカミキリ特異的に媒介されることで、効率よく新たな宿主マツへと移動を行うことが分かっている。本病を防除するためには、線虫の宿主マツに対する病原力だけでなく、媒介カミキリムシを介した分散能力を調査し、線虫・宿主マツ・媒介カミキリムシの三者関係を総合的に理解する必要がある。そこで、以降線虫と媒介カミキリムシの関係を分子レベルで解明することを目指し、実験を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究より、オキナワザイセンチュウはカミキリムシを認識する機構を有していることが、実験的に証明された。マツノザイセンチュウおよびオキナワザイセンチュウの2種は系統的に非常に近縁であるため、媒介カミキリムシの認識に関する分子基盤も共通している可能性が高い。オキナワザイセンチュウを利用し、媒介カミキリムシを認識する受容体やその関連因子を解明することができれば、カミキリムシとの間に便乗関係を有さない大半の線虫種には作用せず、生態系の撹乱を起こさない、特異的な新規農薬の標的になることが予想される。今後は、オキナワザイセンチュウの遺伝子発現解析を介して媒介カミキリムシの認識に関与する受容体を絞り込むと共に、モデル線虫Caenorhabditis elegansの形質転換体を用いて実際の分子機能を解析する手法開発を目指す。
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