研究課題/領域番号 |
21J20926
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 明治大学 |
特別研究員 |
桐野 巴瑠 明治大学, 明治大学大学院農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | マツ枯れ / 植物寄生性線虫 / 進化 / カミキリムシ / 種間比較 |
研究実績の概要 |
マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)は体長1mmほどの植物寄生性線虫であり、マツ科樹木に侵入して、枯死を伴う感染症を引き起こす。これを「マツ枯れ」と呼ぶ。マツ枯れの被害は国内で北上を続けるだけでなく、東アジアやヨーロッパ諸国への進出も確認されている。このようなマツノザイセンチュウの高い分散能力は、媒介昆虫への特異性に起因する。線虫種は、媒介昆虫に便乗する際、分散に特化した発育停止ステージである分散型幼虫へと移行する。マツノザイセンチュウは枯死マツに産卵し健全マツを摂食するMonochamus属のカミキリムシを認識して分散型幼虫へと脱皮し、その虫体に便乗することで、効率的に宿主転換を行っている。一方で、マツノザイセンチュウの近縁モデル線虫種であるオキナワザイセンチュウ(Bursaphelenchus okinawaensis)は、マツノザイセンチュウ同様にカミキリムシに便乗するにも関わらず、媒介昆虫が存在しない培地上でも分散型幼虫が出現する。申請者は、マツノザイセンチュウおよびオキナワザイセンチュウを種間比較することで、Bursaphelenchus属線虫がカミキリムシとの特異的な便乗関係を構築するまでの進化的な道筋を明らかにできると考えた。実験の結果、オキナワザイセンチュウはカミキリムシ由来の物質によって分散型幼虫を誘導するものの、カミキリムシへの便乗率はマツノザイセンチュウと比較して著しく低い事が明らかになった。本研究では、カミキリムシを認識して分散型幼虫を誘導する能力と、分散型幼虫がカミキリムシに便乗する能力は、それぞれ別の分子機構に制御されていることを報告した。これは、Bursaphelenchus属線虫のカミキリムシへの便乗能力が段階的進化を経たことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに進展させた初年度の研究結果を、査読付き国際論文として順調に報告している。本年度より研究計画に変更があったものの、マツノザイセンチュウの近縁種オキナワザイセンチュウのカミキリムシ便乗に関する基礎情報を調査することで、本種が線虫-カミキリムシ間の特異的便乗関係の謎を解き明かすモデルとして有用であることを明らかにした。本結果は、今後線虫のカミキリムシ便乗能力を分子レベルで解明していく上で礎となる重要な知見であり、変更後の研究計画でも順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果から、マツノザイセンチュウの近縁種オキナワザイセンチュウが線虫-カミキリムシ間の特異的便乗関係を理解するうえで有用なモデルであることを明らかにした。今後はオキナワザイセンチュウや、線形動物門で最も遺伝子機能解析が容易なCaenorhabditis elegansを併用しながら、線虫のカミキリムシ認識に関わる分子基盤を解明する予定である。
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