研究課題/領域番号 |
22KJ2849
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
森 龍之介 明治大学, 明治大学, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 曲線短縮流 / 伝播 / 周期進行波 / 粘性解 |
研究実績の概要 |
今年度は,凹凸のある帯状領域における外力項付き曲線短縮流について,解曲線の長時間挙動を数学的特徴づけることに成功した. (1)解曲線の伝播とブロッキングの条件:まず,弱解の枠組みで優解・劣解を構成することで,解の伝播が定常解の非存在と同値であることを示した.次に,Matano-Nakamura-Lou 2006によって導入された,領域の「最大開き角」の概念を拡張して,領域の「有効開き角」を導入した.そして,有効開き角によって,解の伝播とブロッキングを数学的に特徴づけた.これによって,領域の境界に周期的に配置された突起の間隔が狭くなるとブロッキングが解消されて伝播が生じるという新しい現象が数学的に示された. (2)帯状領域の凹凸と解曲線の伝播速度の関係:Matano-Nakamura-Lou 2006の研究と同様に,領域の形状を相似変形によって細かくしていく均質化極限を考えて,解の伝播速度の評価を行った.先行研究では,伝播速度が,領域の最大開き角で特徴づけられている.一方で,本研究では,伝播速度が,領域の「有効開き角」で特徴づけられることが示された.これによって,領域の境界に周期的に配置された突起の間隔が狭くなるほど進行波の速度が速くなるという新しい現象が数学的に示された. (3)周期進行波解の存在と安定性:帯状領域の凹凸に一定の条件を課すことで,周期進行波解の存在と安定性を示した.そのためにまず,時間単調な弱解の正則性を示した.次に,この正則性を利用して,強比較原理と解のある種のコンパクト性を導いた.強比較原理とコンパクト性から,Matano-Nakamura-Lou 2006の力学系の枠組みでの議論によって,周期進行波解の存在と安定性が示される.これによって,領域の境界にぶつかってちぎれながら進んでいく,これまでにない進行波解の存在が数学的に示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究目標は,波状境界をもつ2次元帯状領域における自由境界問題に対して,進行波の存在と定常解の非存在の同値性を示し,進行波の存在・非存在の幾何学的条件を明らかにすることであった.結果として,解の伝播と定常解の非存在の同値性を示した.そして,領域の境界の幾何学的量を新たに導入することで,解の伝播とブロッキングを数学的に特徴づけた.また,解の伝播速度に関する評価を与えることにも成功した.さらに,領域の形状に一定の条件を課して,解の伝播(定常解の非存在)と進行波の存在の同値性を示すことにも成功した.しかしながら,進行波の存在を示す際に課した領域の形状の条件は技術的なものである.そしてその技術的な条件を外した場合の進行波の存在に関しては未解明であり,完全な目標達成には至っていない.以上を踏まえて,本年度の研究はやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,障害物が周期的に配置された2次元帯状領域における外力項付き曲線短縮流に対して,進行波の存在・非存在を研究する.この問題設定においては,(1)障害物の間隔が広いと解の進行が妨げられるブロッキングが生じ,間隔が狭いとブロッキングが解消されることが予想される.また,(2)障害物の配置によっては解が分裂して複数の進行波に収束することも予想される.こうした現象の理論的解明を目指す.(1)に関しては,凹凸のある帯状領域で示された結果と同様であるため,類似の特徴づけが可能であると予想される.一方で,(2)に関しては,領域が単連結でないことに起因する問題があるため,より豊かな知見が得られる可能性がある.また,凹凸のある帯状領域での進行波の存在証明の際に課した技術的な仮定を外すことを検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は成果のまとめ作業や国内外の研究集会等への参加のために補助金を使用した.しかし,成果のまとめ作業が難航しているため,数学関係図書の購読や国内外の研究集会等への参加が想定よりも少なくなり,次年度使用額が生じた.次年度使用額は,数学関係図書の購読や国内外の研究集会への参加などのための補助として使用する.
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