研究課題/領域番号 |
21J00043
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
櫻間 瑞希 早稲田大学, 法学研究科, 特別研究員(PD) (40982632)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | タタール・ディアスポラ / タタール / 母語継承 / ケベック / カナダ / ウズベキスタン |
研究実績の概要 |
本研究課題は、各地に居住するタタールがどのような背景要因からタタール語を継承できたのか、あるいは、継承できなかったのかを考察することを目的としている。これを踏まえたうえで、2年目となる2022年度(令和4年度)は、とくにタタール語の選択/不選択の要因に注目しながら、下記に示す2点の作業を行った。 ①当初は、本年度中にタタールスタンにおけるエリートインタビューの実施を計画していた。しかし、ロシアはウクライナ侵攻をめぐって特殊な社会状況下にあることから、オンラインを含めたあらゆる調査の実施は調査者・被調査者ともにリスクが大きいと判断された。ゆえに、タタールスタンにおける調査はどのような形態であれ、無期限で白紙にせざるを得なかった。一方で、徴兵や戦争の影響を逃れる目的で、タタールスタンをはじめとするロシア国内のタタール人口の多い地域から、カザフスタンやウズベキスタンといった中央アジアの国々への移動が活発となった。移動先でタタール語講座に通いはじめる人がいるという情報が多数寄せられていたことから、とくにタタール語の選択という観点から中央アジアのタタールに再び注目する価値は高いと考えた。予期せず当初の計画からは逸脱する形となったが、2022年9月から半年程度のオンラインでの予備調査を経て、2023年3月にウズベキスタン・タシケントでの調査を実施した。 ②当初の計画どおり、2022年11月にカナダ・ケベック州における資料調査と聞き取り調査を実施した。ケベック州立図書館・文書館で主にカナダ国内の継承語教育と旧ソ連地域からの移住者に関する資料を重点的に収集したほか、カナダ国内のタタール人口はモントリオールに多いことから、当地のタタール民族団体を訪問した。 今年度は情勢の変化により多くの変更を余儀なくされたものの、変更した計画のうえでの調査の実施と、研究成果の公表はおおむね順調に進展した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目となる2022年度(令和4年度)は、とくにウクライナ侵攻の影響により、ロシアでの調査や資料収集等の実施は昨年度に引き続き無期限延期を余儀なくされた。戦時下という特殊な社会情勢において、今年度はオンライン調査の実施もリスク管理の面で困難を極めたことから、計画の変更はやむを得なかった。 計画の大幅変更に伴い、本研究ではロシアから移動した人々の言語選択にも注目することになった。具体的には、ウズベキスタン・タシケントを調査地として、主にロシアから移動してきたタタールの言語選択を調査対象とした。ここでは現地タタール団体の訪問と情報交換、そして、タタール語を選択しようとする7名の研究協力者に半構造化インタビューを実施した。新たに移動した人々がタタール語を学びはじめる事象は、本研究が当初想定した研究対象ではなかったが、タタールであることの自己/他者による認識とタタール語の選択が及ぼす影響に注目する機会ともなり、今後研究をさらに発展させる重要な視点になると考えられる。今後の研究に少なからぬ影響を与えうることと考えられることから、引き続き注目したい。 また、カナダ・モントリオールでの現地調査は計画通り実施され、そこで得られた成果は現在公表の方法を検討している最中である。2度の調査で得られた成果の一部は、日本中央アジア学会年次大会の公開パネルで報告する機会に恵まれた。 今年度は情勢の変化により多くの変更を余儀なくされたものの、新たな計画にもとづく調査の実施と、そこで得られた研究成果の公表はおおむね順調に進展したと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年11月にカナダ・ケベック州における資料調査と聞き取り調査を実施した。具体的には、ケベック州立図書館・文書館で主にカナダ国内の継承語教育と旧ソ連地域からの移住者に関する資料を重点的に収集したほか、カナダ国内のタタール人口はモントリオールに多いことから、当地のタタール民族団体を訪問した。ここでは12名の研究協力者に聞き取り調査を実施し、民族団体の代表者とも情報交換を行った。ただし、聞き取り調査を含め、資料はいまだ十分に集められたとは言いがたい状況であることから、補完調査を実施したい。 また、当初からタタールスタンでの資料収集と聞き取り調査を計画してきたが、現在の状況に鑑みると、ロシア国内在住者に対する調査はどのような形態であれ調査者・被調査者ともにリスクが大きく、来年度も実施は困難だと判断した。一方で、タタールスタンを含むロシアから中央アジアに移動するタタールの動きは、当初の計画に代わるものとして注目したい。予期せず当初の計画からは逸脱する形にはなるが、これまでのタタール・コミュニティのなかでは見られなかった言語選択のありかたのひとつとして通時的に観察する余地がある。今日的なタタール語選択の事例として、中央アジアに逃れたタタールを対象とした調査も引き続き実施したい。
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