最終年度となる2023年度(令和5年度)は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、ロシアから中央アジア諸国へと移動したタタールに注目し、下記に示す2点の調査を行った。
①2023年9月にカザフスタン・アルマトゥでの調査を実施した。ここでは主にロシアからカザフスタンへと移動し、タタール語を学び始めた人々を対象として半構造化インタビューを実施した。その際には現地のタタール文化センターを拠点とし、移住者向けのタタール語講座での参与観察も併せて実施した。また、人口流入に関する資料の収集を目的として、同国国立文書館での資料収集も行った。 ②2024年3月にはウズベキスタン・タシュケントでの調査を実施した。ここでも主にロシアからウズベキスタンへ移動し、タタール語を学び始めた人々を対象として半構造化インタビューを実施した。また、民族活動が活発に行われる地元モスクでの聞き取り調査もあわせて実施した。タシュケントにおいても現地のタタール文化センターを拠点としたが、これまでの研究成果に関する講演会と、タタール語講座での臨時講師としての参与観察も行った。
状況に鑑みて本年度も当初の計画からの大幅な逸脱を余儀なくされたものの、戦時下における新たな人の移動とそこでの言語選択という事象に注目する機会となった。本研究で扱ったテーマは、言語とアイデンティティの関係性や、民族の境界づけといった、より普遍的な人文・社会科学の課題とも接点を有している。今後は本研究の知見をもとに、言語の継承と民族アイデンティティの関係性について、より一般化した議論を展開することも視野に入れている。本研究は3年間の研究期間を終えるが、ここで得られた知見と課題をもとに、タタールのみならず、言語とアイデンティティの関係性について、より広い視野から研究を発展させていきたい。
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