研究課題/領域番号 |
21J01189
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
阿部 崇史 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 平等主義 / 社会正義論 / 自律 / 責任 / 選択 / 関係論的平等主義 / 運の平等主義 |
研究実績の概要 |
2022年度は、主に以下の三つの研究を実施した。 第一に、正当化レベル関係論という立場を構想した。この立場は、諸人格への平等な尊重という理念への解釈を通じて、具体的な規範的要請を導き出す。それによって、分配の平等と社会関係の平等という二つの還元不可能な規範的要請を、相互に一貫したものとなるように解釈できる。この研究は、主に、石田柊氏および宮本雅也氏との共同研究を通じて実施した。その成果については、2023年度の国際ワークショップで報告を行う(報告タイトル:"What's Relational about Relational Egalitarianism.")。 第二に、諸人格への平等な尊重という理念に依拠した自律基底的運の平等主義という立場から、人々の選択肢を不運の影響から保護する社会制度を構想した。運の平等主義は、従来、不利益に対して事後的な個人補償で対処を行なっていた。しかし、人々の自律を尊重するならば、事前の社会制度の編成によって、人々の選択肢を不運の影響から保護すべきである。この成果については、2023年度中に論文として刊行することを目指している。 第三に、選択責任を踏まえた福祉国家の諸制度に向けられる屈辱性批判に対して応答を行った。屈辱性批判とは、人々の選択責任を問うようになると、さまざまな福祉制度が人々に屈辱を与えるようになってしまう、という批判である。これに対して、屈辱を引き起こすのは過去志向的な選択責任の構想を採用しているからであり、未来志向的な選択責任の構想を採用する自律基底的運の平等主義であれば、屈辱性批判を回避できると明らかにした。この成果は、2023年度の日本政治学会での研究報告が決まっている(報告タイトル:選択責任と行為者性の尊重ーー自律基底的運の平等主義による屈辱性批判の乗り越え)。また、そこでのコメントを踏まえて論文投稿を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、上述の第一の研究実績については、平等主義の分野で世界トップレベルの研究者が集まるワークショップで報告できるまでの成果をあげた。次に、第二・第三の研究実績については、未来志向的な選択責任の構想を平等主義に組み込むという英語圏のジャーナルで近年重要視されている課題に、自律基底的運の平等主義という立場を構築することで応答している。これらは、まだ論文化されてはいないものの、いずれも2023年度中の論文化が見込まれるため、研究が大きく進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、上述の三つの研究実績について、論文として刊行することを目指す。第一の研究実績については、国際ワークショップでのコメントを踏まえて、国際学術誌への投稿を予定している。第二の研究実績については、学会・ワークショップなどでの報告を行った上で、論文化を行う。第三の研究実績については、前述の学会報告ののちに、論文化を行う。 また、並行して進めている教育政策・制度に関する共同研究を進め、人々の自律的な生き方を支える教育制度のあり方を提示する。 さらに、正当化レベル関係論の枠組みから、公正な市場経済の制度を構想する研究を進める。
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