本研究の目的は非人間化のメカニズムを解明することである。非人間化とは、人を人以下の存在として捉え扱うことである。非人間化は、広く一般に認められる現象であり、他者への共感を阻害し、攻撃を促すため、メカニズムの解明は非常に重要である。 最終年度では、これまでに示された非道徳的行動と非人間化の関係について、非人間化の二つの形態(動物化・機械化)に焦点を当てた追加実験を行った。その結果、非道徳的行動をとった人物は、その行動がどの道徳基盤に反するかに関わらず動物化されやすかった。しかし、機械化の場合は、非道徳的行動がどの道徳基盤に反するかに応じてその程度が異なることが明らかとなった。これまでの一連の研究成果は、非人間化の形態によって生起要因が異なることを示すものであり、非人間化の生起メカニズムの解明に寄与すると考えられる。なお、最終年度の研究成果は、国内学会(日本社会心理学会)において発表され、現在、国際誌において査読審査中である。上記の研究に加え、自己に対する非人間化(自己モノ化)と感情認識能力との関連を検討した研究も行っており、国際誌への投稿準備中である。 なお、研究期間を全体を通して複数の研究を行い、それぞれで成果を得た。例えば、年齢を理由とした偏見や差別(エイジズム)による人間らしさの知覚への影響についての研究や、人間らしさの知覚に関連する脳活動についての研究、マスクによる感情認知への影響の文化差の研究、さらに、気候変動対策を促すための心理的介入方法について検討した国際的な共同研究などを行なった。これらの成果は、Emotion、Science Advances、Japanese Psychological Researchなどの国際誌に採択された。
|