研究課題/領域番号 |
21J20125
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
萩原 佑紀 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 結晶アクチュエータ / 光熱効果 / 固有振動 / 高速屈曲 / 屈曲シミュレーション |
研究実績の概要 |
光や熱などに応答して動くメカニカル結晶はアクチュエータやソフトロボットへの応用が期待されている。これまでメカニカル結晶の大部分は光異性化に、一部は相転移に基づいて開発されていた。しかし、光異性化や相転移を起こす結晶は数が限られており、動きが遅く、照射波長が紫外光に限られていることが難点であった。私は2020年に、サリチリデンアニリン結晶が光熱効果により高速で屈曲することを初めて発見した。光熱効果は物質が光を吸収して励起状態になり、基底状態に戻る際に熱を放出する現象で、光を吸収するほとんどの結晶で起きる。このため幅広い結晶を対象にでき、あらゆる波長の光で結晶を高速で動かせる可能性がある。本研究では最初に、光熱効果による結晶の屈曲機構を解明する。次いで、光熱効果に基づく多種多様なメカニカル結晶の開発を行う。その後、屈曲以外の多様な運動の創出、ハイブリッド結晶の開発も行い、光異性化や相転移では望めなかった、メカニカル結晶材料の多様化と可能性の拡大を目指す。 2021年度は、最初に光熱効果による結晶の屈曲機構の解明を行い、次に光熱効果で大きく屈曲する結晶の探索と創製を検討した。その結果、非定常熱伝導方程式に基づいた結晶の屈曲シミュレーションに成功し、光熱効果による屈曲機構を実証できた。さらに、光熱効果による大きく屈曲する結晶を開発している途中に、当初予想していなかった、固有振動によって結晶が高速で屈曲することを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は、結晶の光熱効果による屈曲機構を明らかにするため、屈曲シミュレーション系を構築した。屈曲と同時観察した照射表面温度を用いて、非定常熱伝導方程式から結晶の裏面の温度を求め、表裏面の温度差から屈曲角に変換する。実際に屈曲シミュレーションを実施した結果、実測の屈曲挙動の再現に成功し、光熱効果で表面に発生した熱が伝導して表面と裏面に温度差が生じ、表面が裏面よりも膨張することで屈曲するという機構を実証できた。また、測定表面温度を用いない、照射光のエネルギーを用いた場合にも屈曲シミュレーションを拡張できた。さらに光熱効果により、500 Hzの高速屈曲を達成した。 次に、結晶構造の温度変化の大きい結晶に注目すれば光熱効果による大きな屈曲を創出できると考え、長さ方向の熱膨張率の大きい(247/MK)アニソール結晶を作製し検討した。その結果、紫外光(375 nm)照射で棒状アニソール結晶が1.2°大きく屈曲した。驚くことに、光熱効果による屈曲と同時に、390 Hzの高速で微小な固有振動が起きることを新しく発見した。固有振動数と同じ周波数のパルス光照射により、共振で3.5°に増幅された390 Hzの高速屈曲の創出に成功した。非定常熱伝導方程式に基づいて表面の実測温度から裏面の温度を算出し、表裏面の温度差により生じる熱応力を外力とした弾性曲線方程式を解けば屈曲をシミュレーションできると考え、有限要素法によるシミュレーションを行なった。その結果、光熱効果と固有振動の組み合わせた屈曲、および共振で増幅された高速屈曲についてもシミュレーションに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を継続しつつ、今後は光熱効果だけでなく、新たに見出した固有振動による高速屈曲にも注目して研究を推進する。固有振動は、物体が外部からの力により、材質や形状に依存した一定の固有振動数で振動し続ける現象である。光熱効果と固有振動はともにあらゆる結晶で起きる物理現象であるため、光熱効果と固有振動を組み合わせることで、あらゆる結晶を大きくかつ高速で動かすことが可能となる。 最初に、可視光や近赤外光により屈曲する結晶の開発を行う。可視光や近赤外光を吸収する化合物の結晶を文献検索して選定し、実際に可視光、近赤外光を照射して屈曲と照射表面温度の同時観察を行う。結晶の形状や向き、光の照射強度やパルス周波数を変えて屈曲への影響を明らかにする。波長ごとの吸光度を反映した屈曲シミュレーションを実施し、実測の屈曲と比較する。次に、超高速で屈曲する結晶の開発を行う。ヤング率の大きいアミノ酸などの結晶は高い固有振動数を持つことが期待されるため、実際に固有振動の共振による高速屈曲を検討する。また、光異性化や相転移によって動く結晶について、光熱効果・固有振動との複合的な動きの創出を検討する。屈曲以外の多種多様な動きの創出や、色素やカーボン材料をコーティングしたハイブリッド結晶の作製も行い、メカニカル結晶の多様化と可能性の拡大を目指す。
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