研究課題/領域番号 |
21J20393
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
稲垣 直人 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 風波 / 越波 / 沿岸災害 / 台風災害 / 強風 / 有限体積法 / 風洞水槽 |
研究実績の概要 |
2019年台風15号の被災直後に福浦海岸とその周辺で行った現地調査の結果と、気象データを外力とした波浪追算および観測データの比較から、この波浪災害の原因を台風による瞬間的な突風の影響と仮定した。そして、瞬間的な現象が気象-波浪モデルでは捉えきれないことを指摘し、議論を展開させた。これを踏まえ独自に開発した有限体積法に基づく数値モデルは、台風級の強風条件でも安定して計算可能で、風による波の成長と越波流量の増加の基本的な傾向を捉えることができた。また、この現象では風による砕波形態の変化や打ち上げ水塊の輸送などの複雑な流体運動の考察が重要であり、詳細な水理実験が必要であることが分かった。ここまでの成果は、既に査読付き国際ジャーナルに採録されている。 これを踏まえ、2021年度末から風洞水槽を用いた水理実験を行っている。実験は新潟大学との共同研究という形で進行しており、新潟大学の所有する造波水槽に風速を制御可能なファンを取り付けることで風洞水槽を制作した。これらの実験を通じ、風が越波流量を増加させる一般的な傾向を明らかにしただけではなく、PIV解析という光学的手法を用いて、風速作用下での砕波現象および、越波水塊の流速分布を具に観察することで定量的な議論も進んでいる。また、波の成長・砕波に係るせん断力、水塊の輸送・打ち上げに係る慣性力など支配的な力の変化に対応して、一連の現象を複数の段階に分けることができることが分かった。いくつかの段階はこれまでに提案した有限体積法のモデルのみでは再現できない可能性が高まってきており、粒子法や格子ボルツマン法など異なるスキームのモデル開発も並行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沿岸域の局所的な強風による越波流量の増加および水塊輸送機構を明らかにする本研究において、2021年度は(a)有限体積法に基づく数値計算による考察・水理実験で検討すべき現象の同定と、(b)風洞水槽を用いた水理実験の計画と実施を目標としていた。 まず(a)について、数値流体力学の分野では標準的な有限体積法に基づく数値モデルを提案し、その適用性を考察した点は、国際ジャーナルに投稿したことも含めて、当初の計画通り進んだ。 この数値解析の結果を踏まえた(b)について、風洞水槽を用いた水理実験を2021年度後期に予定していたが、その実施が2か月程度遅れた。これには実験装置の設置における安全性の検討などに時間がかかったことや、政府および大学の新型コロナウイルス感染拡大防止措置により実験を実施する新潟大学への移動が制限されたことが背景にある。その一方で、準備を綿密に行ったため、移動後の実験装置の制作や実験実施が効率的になされ、年度末から開始した実験は想定以上のペースで進んでいる。 以上の状況を踏まえ、現在までの進捗を「おおむね順調である」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は(a)風洞水槽を用いた水理実験の実施と、(b)実験結果を踏まえた発展的な数値モデルの開発の二軸で研究を進めていく。 (a)については、2021年度末から本格的に実験を開始しており、2022年度半ばの終了を見込んでいる。実験装置の作成・設置を工夫し、実験は非常に順調に進行している。実験の結果、対象としている現象の本質となる水塊輸送が観察されており、この定量的な評価が一連の水理実験の焦点となる。実験結果と考察は、2022年度内の国際会議発表と国際ジャーナル投稿を目標としている。 (b)については、(a)で観察された水塊輸送について、新しい数値モデルを独自に開発する。実験結果を再現するだけではなく、異なるスケールでも適用できるように複雑なパラメータに依存しない物理モデルの提案を心がける。
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