前年度の実験結果から、in vitroにおける中和活性を発揮しない交差防御抗体が肺胞マクロファージを介して感染防御効果を発揮することが明らかとなっている。そこで本年度は、この肺胞マクロファージ依存的な感染防御メカニズムの詳細を解明することを目指した。 まず、感染防御における肺胞マクロファージへの依存性が見られた交差防御抗体について、抗体を投与した際における感染時の肺胞マクロファージの表現型を解析した。その結果、感染3日後に採取した肺洗浄液中の肺胞マクロファージにおいて、M1マクロファージに特徴的な内在性マーカーであるiNOSの発現が見られた。このことから、感染初期における肺胞マクロファージのM1マクロファージへの分化が感染防御に寄与していることが示唆された。 M1マクロファージは、炎症性サイトカインの産生を介した他の免疫細胞の活性化に寄与することが知られている。このような炎症性サイトカインのうち、IL-1bやIL-6は肺組織の感染に対する防御免疫応答に必須であることが知られている。そこで、本研究で見出した肺胞マクロファージ依存的な感染防御メカニズムについて、これらの炎症性サイトカインが投与抗体の感染防御に直接寄与しているのか否か検証した。その結果、特異的抗体を用いて体内のIL-1bおよびIL-6を中和したマウスにおいて、投与した交差防御抗体の感染防御効果が減弱し、感染に伴う体重減少が顕著に増大した。以上の結果から、中和活性を示さない交差防御抗体が発揮する肺胞マクロファージ依存的な感染防御メカニズムは、肺胞マクロファージがM1マクロファージに分化し、IL-1bやIL-6などの炎症性サイトカインを産生することで発揮されることが強く示唆された。
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