2023年度は、2022年度に得た成果を元に、主に3つの研究成果を出すことができた。 第1に、2022年度に行った学会報告に基づく成果として、論文が査読誌に掲載された。論文のタイトルは「私営新聞はいかに党の新聞となったか―1950年代『新民報』上海版の公私合営化過程を対象に―」であり、『メディア研究』103号に掲載された。私営新聞であった『新民報(晩刊)』上海版に対する、1950年代の公私合営化過程を対象に、档案館の史料に基づく事例分析と内容分析を行った。この結果、党の関係者の関与によって、時事ニュースに対する統制が強まるとともに、娯楽ニュースは『新民報』独自の報道が行われており、二元的な報道体制ができあがったことを示した。ここから、1950年代の新聞に対する統制と、現代にいたるまで続く統制の関連性を考察した。 第2に、ソーシャル・メディアを対象に分析を発展させることができた。『人民日報』などのソーシャル・メディアの投稿内容を対象に、党の宣伝政策の変化を実証的に示すことができた。この成果は、学会報告や査読付き論文として発表した。 第3に、特別研究員RPD(特別研究員奨励費)の成果として、書籍を出版した。2024年3月に勁草書房より『中国の新聞管理制度―商業紙はいかに共産党の権力を受け入れたのか』を刊行した。書籍では、中国では改革開放以降、市場経済が進んだにもかかわらず、なぜ商業紙は共産党を支持し続けているのか、という問いを立てて研究を行った。主管・主弁単位制度という中国特有の制度に着目し、1949年から2018年までの70年間にわたる、制度が媒介する党と商業紙の関係を明らかにした。以上から、商業紙が党の権力を受容し、党の支配を正統化するメカニズムを実証的に示した。
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