研究実績の概要 |
最終年度は、昨年度から引き続きサカリアス・トペーリウス(Zacharias Topelius, 1818-1898)に注目し、彼の歴史叙述における「フィンランド・フォルク」概念について検討してきた。その際、ロシア帝国におけるフィンランド大公国の地位をめぐる当時の議論にも目配りした。得られた成果については、バルト=スカンディナヴィア研究会4月例会で「1840年代フィンランド知識人における「国民国家」形成:サカリアス・トペーリウスの歴史叙述を事例として」という題で報告し、北欧史の専門家から助言を受けた。また、昨年度の成果と合わせて、論文「ロシア帝国におけるフィンランド大公国と「フィンランド・フォルク」概念:19世紀前半の知識人の議論において」を執筆し、『北欧史研究』第40号に査読付き論文として掲載された。秋には、ヘルシンキに短期間滞在し、フィンランドの国立図書館でトペーリウスに関する未刊行史料を収集し、現地のフィンランド近代史の専門家と意見交換した。年度末には、次年度に行うことが既に決定していた第74回日本西洋史学会大会での研究報告「19世紀フィンランドの「国民」と言語:サカリアス・トペーリウスの事例から」の準備を行った。 本研究の主要な成果は、19世紀の「フィンランド国民」と言語をめぐる議論がロシア帝国におけるフィンランド大公国の地位に関する当時の議論や「フィンランド・フォルク/カンサ」が政治的権利の保有者として想定されていく過程と関係していること、およびその関係のあり方をトペーリウスの事例を通じて具体的に明らかにしたことである。こうした成果については、査読付き論文や複数の研究報告を通じて公表することができた。
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