今年度も前年度に引き続きウランバートルに滞在し、モンゴル国立中央文書館所蔵史料を調査した。駅站・哨所に関するフォンド(M143-157)から取引関連の文書ユニットを抽出し、ボリュームゾーンにあたる①1790年前後と②1875年前後、その中間の③1833年前後、以上の三時期における駅站・哨所をとりまく取引の構造を分析したところ、駅站・哨所の兵が、周辺に住む遊牧民と商人との間で仲介者の役割を果たしていたことが明らかになった。駅站・哨所では取引の内容が文書として残るので、周辺住民や商人は、代金の未払いなど取引に伴うトラブルのリスクを減らす手段として、兵を介した取引を行ったと考えられる。駅站・哨所は、ほんらい清がハルハに課した徭役のひとつとして、政治・軍事的役割を果たすものであったが、経済の中心地である都市から離れた場所にあって、地域経済の拠点としても機能するようになったといえよう。この成果は国際モンゴル学者会議で発表した。 上述の史料調査中、M151フォンドのなかに、1728~1866年にロシアのシベリアからハルハに送られてきた書簡原本150件余り(モンゴル・満洲・ロシア語)を発見し、国境を越えたコミュニケーションの媒介言語に焦点を当てて分析を行い、その成果を常設国際アルタイ学会で発表した。 上記に加えて、モンゴル国立公文書館所蔵史料の不足を補うための中国第一歴史档案館調査や、駅站跡の実地調査も行った。 また研究の裾野を広げる活動として下記に取り組んだ。 ・モンゴル史題材の漫画『天幕のジャードゥーガル』の解説記事「もっと!天幕のジャードゥーガル」連載、Webサイト「Souffle」秋田書店 ・歴史家ワークショップ主催のYoutubeライブ動画「『天幕のジャードゥーガル』のウラガワ!」出演、2023年11月5日
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