今年度は(a)社交場面における不安症状の再発に爪コルチゾールが及ぼす影響,(b)爪コルチゾールの変化に影響を及ぼす要因の検討,(c)爪コルチゾールの程度を低減させる方略の予備的検討,を実施した。まず(a)については,仮説とは反対に爪コルチゾールの程度が高いことは直接的に不安症状の再発に影響しない結果が示された。仮説とは反対の結果が得られたことについて,本研究では爪コルチゾールによる長期的なストレス状態の定量化がごく短期間にとどまっていたことが影響していた可能性が考えられた。次に(b)では,社交不安における長期的なストレス状態を高める要因として,負担感の知覚と所属感の減弱を想定し,これらの要因との関連を縦断的に検討した。その結果,負担感の知覚の変化と爪コルチゾールの変化との間に有意な正の相関が得られたことから,爪コルチゾールの変化には特に負担感の知覚が影響している可能性が示唆された。そして(c)について,負担感の知覚と所属感の減弱の低減に対して有用であると理論的に想定される,マインドフルネスを基にしたセルフ・コンパッションの効果を検討するために,まず短期的なオンライン介入を実施した。その結果,1週間の介入によって負担感の知覚と所属感の減弱の程度は有意に低減した。そのため,セルフ・コンパッションに基づく介入は有用である可能性があると判断し,より長期的な従事期間に基づく介入を現在実施中である。
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