今年度は(c)爪コルチゾールの程度を低減させる方略の検討,および社交不安において長期的なストレス状態が維持される背景として,ストレス生成仮説に基づく縦断調査を実施した。 まず(c)については,仮説とは反対に2か月間のセルフ・コンパッション介入は爪コルチゾール値の有意な低減には影響しなかった。そのため,本研究で実施したセルフ・コンパッション介入は爪コルチゾール値といった生体指標の変化をもたらすほどの十分な強度ではなかった可能性が考えられた。次に縦断調査について,本研究では長期的なストレス状態が維持される背景としてネガティブなライフイベントの経験に着目し,ライフイベントの生成に影響する要因として社交場面経験後の反すう思考(Post-event processing:PEP)に着目した。2時点の縦断調査の結果,仮説とは反対に1時点目のPEPは2時点目のネガティブなライフイベントの経験を予測しなかったものの,抑うつの程度は有意に予測した。また,社交不安の程度も予測しなかったことから,ネガティブなライフイベントの経験においては抑うつ症状の影響が大きい可能性が示唆された。 以上の今年度の実績から,心理学的操作による爪コルチゾール値の低減可能性,また再発との関係についてはさらなる検証が必要であると考えられる。しかしながら,社交不安を呈する者における再発のリスク要因として想定した長期的なストレス状態を測定する上で,爪コルチゾールを活用することの有用性について,一定の知見は得ることができたと考えられる。
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