研究課題
植物は24時間周期で変動する地球環境に応じて生命活動を行うために概日時計をもつ。これまで植物概日時計の機構を解明すべく小分子(概日時計制御分子)を用いた手法が注目されてきた。しかし、実際に概日時計制御分子を用いた機構解明研究の報告例はなかった。当研究グループは、植物(シロイヌナズナ)の概日時計制御分子としてBML-259(以下、BML)を発見した。BMLは、シロイヌナズナの概日リズムを長周期化する。本年度、本分子の類縁体合成及び、周期変調活性評価に対するSARを行い、同分子の活性部位と誘導化可能な部位を明らかとした。また、これらの知見をもとにBML類縁体から分子プローブを合成し、プルダウンアッセイを行い、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)C2をBMLの標的タンパク質として同定した。しかし、BMLの周期変調活性にかかわる重要な分子構造が不明であった。そこで、より高活性な類縁体の創製を目指し、60種類以上の類縁体を合成した。その結果、フェニル酢酸部位をチオフェン骨格へと変換したBML類縁体(TT-361)がBMLの約60倍の活性を示すことを見いだした。さらにBML類縁体のCDKC2結合メカニズムを理解するため、植物CDKC2の予測構造に対して、BML類縁体の分子ドッキングシミュレーションに着手した。研究方針としては、BMLと高活性な類縁体TT-361の標的タンパク質に対する水素結合の結合長と平均結合自由エネルギーを算出する。実際にこれらのデータを比較することで、フェニル酢酸部位を嵩の小さいチオフェンに変換することで、標的タンパク質CDKC2との結合が強くなることが示めされ、生物活性と構造の関係を実証した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、概日リズム長周期化活性の高い分子TT-361の創製に成功した。植物概日時計制御分子BMLをリード化合物とし、構造活性相関研究を行った結果、BMLのベンゼン環をチオフェン環に変換したTT-361はBMLの約60倍の活性を示した。さらに、TT-361はBMLが阻害する植物CDKC2を標的とし、BMLに比べCDKC2に対して強い結合エネルギーと短い結合長をもつことを明らかにした。高い長周期化活性をもつTT-361は、標的タンパク質CDKC2の植物概日時計に対する作用機序を解明する研究用ツールとしての応用が期待できる。
今後は、これまでに報告した植物概日時計制御分子と標的タンパク質の詳細な作用機序解明に挑む。見いだした植物概日時計制御分子AMI-331は、CK1ファミリーを選択的に阻害することがわかっているものの、CK1ファミリー中の概日時計タンパク質との作用部位は明らかとなっていない。2種類の構造解析のアプローチから、AMI-331とCK1ファミリーとの結合部位および相互作用するアミノ酸残基の同定を目指す。1つ目は、AMI-331とCK1ファミリーの共結晶化した後、X線結晶構造解析を行う。2つ目は、クライオ電子顕微鏡よる構造解析を行う。しかし、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析では、CK1ファミリーのような分子量の小さいタンパク質の解析は困難である。そのため、構造既知の分子量の大きい分子を目的の低分子タンパク質と融合したキメラタンパク質を用いれば、分子量の小さいCK1ファミリーも構造解析が可能になると考えている。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Plant Cell Physiology
巻: 63 ページ: 1720,1728
10.1093/pcp/pcac127