研究課題/領域番号 |
22J13665
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐藤 峻 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | ストレッチャブルエレクトロニクス / フレキシブルエレクトロニクス / 液体金属 / ガリンスタン / 接触抵抗 |
研究実績の概要 |
第一年度は,主に液体金属の接触抵抗の高精度計測方法の提案を行い,さらに液体金属による電子素子実装の伸縮耐性を評価した. 液体金属の接触抵抗計測に関しては,従来教科書的な接触抵抗の計測方法としてTransfer Length Method (TLM) が非常によく知られている.従来の接触抵抗計測は半導体と金属電極間の接触抵抗を主としていたため,TLMでは金属電極のシート抵抗は対象物(半導体)のシート抵抗と比べて無視できると仮定されていた.しかしながら,実際にTLM計測および有限要素法(FEM)による電流密度分布解析の結果,液体金属は金属電極とシート抵抗が同程度であるため,上記仮定が成立せず,教科書的なTLMでは接触抵抗の計測はできないことを発見した.さらに,教科書的なTLMを改良して計測電極毎への電流印加の提案・実証まで行った. 液体金属実装の伸縮耐性に関しては,まず,実装部の引張試験とFEMによる応力分布解析を行った.その結果,液体金属実装によってハンダや導電性ペーストの12倍以上の伸縮耐性が得た一方で,素子と基板間が応力集中により剥離することを発見した.これに対し,素子下部の基板を硬くして実装部の応力集中を緩和することを考え,基板の剛性分布に対する応力分布を解析した.その結果,基板の高剛性部のヤング率や面積を増加させることで応力集中を10%以下に低減可能であることが明らかになった. これらの結果,マイクロマシン・MEMS分野における世界最上位の国際会議であるIEEE MEMS 2023をはじめ,査読付き国際論文誌1件(共著),国際会議3件,国内学会6件の成果を上げ,2件の受賞を受けた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一年度は,当初計画していた通り,液体金属の接触角計測および接触抵抗計測による接触抵抗要因の解明を行い,研究成果をマイクロマシン・MEMS分野における世界最上位の国際会議であるIEEE MEMS 2023をはじめ,査読付き国際論文誌1件(共著),国際会議3件,国内学会6件の成果を上げ,2件の受賞するなど,高い成果を上げた. 特に,第一年度に取り組んだ「液体金属の接触抵抗の高精度計測方法の提案」では,当初の研究計画では予想していなかった課題を発見すると共に解決した.当該年度において,液体金属と金属電極間の接触抵抗の高精度計測方法の検討を行った.従来,教科書的な接触抵抗計測方法としてはTransfer Length Method (TLM) が非常によく知られている.しかしながら,液体金属と金属電極間の接触抵抗をTLMで計測しようとすると「何かがおかしい」ということから精査することとなった.その結果,従来の接触抵抗計測は半導体と金属電極間の接触抵抗を主としていたため,TLMには「金属電極のシート抵抗が対象物(半導体)のシート抵抗と比べて無視できるほど小さい」という仮定が入っており,これが問題であったことが明らかとなった.すなわち,対象物が液体金属の場合には,上記の仮定が成り立たず,教科書的なTLMでは接触抵抗の計測はできないということである.結論だけ聞くと至極もっともなことのように聞こえるが,結論に至るまでの教科書に載っているような測定方法を疑ってかかる作業は大変な労力がかかり,原因を究明し結論を得たことは高く評価できる.研究成果としては,「液体金属と金属電極間の接触抵抗計測は,教科書的なTLMでは計測できない」というだけでなく,教科書的なTLMを改良し「液体金属と金属電極間の接触抵抗の高精度な計測方法の提案」まで行っている.
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今後の研究の推進方策 |
●液体金属の接触抵抗計測 第二年次は,第一年度に開発した液体金属の接触抵抗計測方法を用いて異なる組み合わせの金属材料の接触抵抗を計測し,低接触抵抗が得られる条件を探索する.また,酸・塩基水溶液を用いて酸化皮膜を除去した場合の接触抵抗を計測し,空気中で十分に酸化皮膜を形成させた場合の接触抵抗を比較し,酸化皮膜の影響を評価する.空気中での酸化皮膜破壊方法として,液体金属の注入速度や注入圧力,超音波振動によるキャビテーション,減圧処理などに対する接触抵抗を計測する. ●低接触抵抗の液体金属実装の実現 第二年次は,有限要素法を用いて液体金属実装部の伸縮変形に対する応力分布を解析する.解析した応力分布に基づき,変形に対する応力集中を緩和するための実装構造を,有限要素シミュレーションを用いて探索し,実装部の変形耐性評価用デバイスの変形試験結果との比較・検証を行う.可能であれば,トポロジー最適化による実装部の構造の形状最適化を行う. ●高伸縮・高性能なストレッチャブル電子デバイスの実現 第二年次は,液体金属実装によって複数の電子素子を実装したストレッチャブル電子デバイスを作製し,伸縮耐性および性能を評価する.この際,電子素子の下の基板を硬い材料,伸縮配線部を柔らかい材料とした伸縮基板とすることで,素子周辺の変形を抑制し,実装部付近の破断を防ぐ.伸縮基板の剛性設計では,有限要素シミュレーションによる形状探索を行う他,可能であれば,形状最適化も行う.最後に,複数の加速度センサおよびICチップ,バッテリを有するストレッチャブル生体モニタリングデバイスを作製し,テニス選手の肘に貼付してスイング時の肘の曲げ伸ばしの計測を行い,高性能・高伸縮を実証する.
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